【書評】矢作俊彦・谷口ジロー『サムライ・ノングラータ』かっこいいフリーランスの姿


 矢作俊彦・原作 谷口ジロー・作画『サムライ・ノングラータ』(フリースタイル)は、フリーランスのかっこいい生き方を描いて、何度も繰り返し読み返したくなるマンガである。

 主人公二人(個人の商社マン・ホンゴーと元傭兵・ノリミズ)が世界中を股にかける冒険。

 主人公二人とも、組織には属しておらず、フリーランスである。

 彼らの主な行動原理はカネで、友情で結ばれている訳ではない。一方が一方に協力する際も、真剣にコスト交渉をする(経費込みで)。命を狙われている場面でも。

 ある意味、行為の対価の交渉こそに、人生の意味があるのかもしれない、と思わせる。

 1990年連載ということであるが、中に描かれているガジェットや政治背景(コンピュータハッキング、中東と欧米の緊張関係)などの現代性も十分だ。

 加えて、武器や格闘技(関節技)の異常に正確な描写や、更には細かいところで最近話題になった、ウォーターボーディング(水拷問)が何故か異常に正確極まりなく(えげつなく)描写されており、その拷問の被害者の心が折れるところまで、説得力を持って迫ってくる。

(襲撃したが、逆に主人公に捕らわれ、拷問を受けて泣くヤクザに)

ホンゴー「くよくよするなよ、こいつは拷問のプロなんだ」

ヤクザ「しく、しく」(←泣いている 引用者注)

ノリミズ「拷問?外人部隊じゃ ありゃあ蓄膿症の治療だ」

また、別のシーンで

ホンゴー「何もここまでやらなくったって」

ノリミズ「後方がない以上敵は殲滅するしかない」

(中略)

ノリミズ「おれたちゃ二人きりだ。捕虜にとるわけにはいかない。

今度やったら殺されるって思い込ませるしかないんだよ。

本当に殺すのが一番いいんだけどな」

ホンゴー「・・・・・」

—–引用終わり

と言った暴力の描写の後に非常に冷徹な会話が。

 怖いが、ある意味、徹底的な個人主義、フリーランスの心得と言えなくもない。

 敵に対峙した際に、「後方がない」という覚悟。団体戦で処理できない場合、目の前に迫る緊急性の高いタスクをどのように処理するか。

 自分にはもう後工程がない、と仮定した場合の覚悟。

 まさに個人、フリーランスとして、誰もが持っているであろう心理だと思う。

 組織という団体戦に対する個人の非対称性を明確に描き、その上で個人戦で真っ向勝負する2人、まさにかっこいいフリーランスの姿として惚れ惚れとしてしまう。

 表紙の女性は全くストーリーに絡まず、不自然なくらいのゲストキャラ。

 ちなみに表題は、外交用語であるペルソナ・ノングラータ(好ましからざる人物)のもじりである。

 最後のストーリーである、アルジェリアでの砂漠の戦い「百円の孤独」のラストはしびれます。

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