私が最も感動したプロレスの名勝負:天龍源一郎vsR・サベージ


子供の頃から長くプロレスを見ているが、一番感動した試合をあげると、1990年4月13日東京ドーム「日米レスリングサミット」(WWE,全日本プロレス,新日本プロレス)のメインでもセミでもなく行われた

天龍源一郎 対 ランディ・サベージ

のシングルマッチである。今でもYouTubeなどで視聴可能なようだが、当時私はTVで見たが、非常に興奮したことを覚えている。その後、何度も映像を見返しても、今でも面白いし、興奮する。

試合自体は正調のアメリカンプロレスであり、当時の日本のプロレスファン(私含む)には本来受け入れられない文脈なのだが、トータルとしてみた時に、非常に両者がスイングして、何故か?面白い試合になったのである。

この試合に至るプロレス業界を示すと、第二次UWF(前田、高田、船木を擁していた)が絶好調の中、天龍も全日本プロレスで天龍革命(天龍同盟)という”硬い”ムーブメントを起こしていた。

日本のファンの志向としては、非常に格闘色の度合いが濃いプロレスを称賛する風潮が強く、ショーマン的なプロレスは基本的に敬遠される傾向にあった。

天龍はこの試合の前に、全日本プロレスの体制内革命である天龍革命を終了(解散)させている。これからは一人で活動する、と宣言して、孤独の中でこの試合を迎えていた。

この試合のマッチメークの意味は、いくつか想像できる。

・今後の天龍の全日本プロレスでの位置付けをどう捉えるか?

試合順は全13試合中、第9試合である。メイン、セミファイナルではなく、後ろから4番目の試合であり、それまでの全日本プロレスの功労者に対する格としては位置付けが低いとも思える。

しかし、日本人としてはジャイアント馬場(セミファイナルでアンドレ・ザ・ジャイアントとタッグを組んだ)に次ぐ二番目で、ジャンボ鶴田よりも後だ(ジャンボは第8試合でタッグマッチ)。

つまり全日本プロレスのエースとしての処遇は受けている。

・相手としてのランディ・サベージとのシングルマッチの意味はどう捉えるか?

ランディ・サベージはこのとき初来日。
まさしく”まだ見ぬ強豪”であることは間違いない。

1988年にはWWFの最高峰WWF世界ヘビー級王座についている(1990年時点では今回のメインに登場するハルク・ホーガンに奪われている)。

しかし、その一方で当時日本のプロレスファンが嫌っていたショーマン派(実力もないのに格好だけ良い)に属する前評判だ。

WWFのエンタテイメント路線は今でこそ日本でも受け入れられているが、この時は外道も外道だった。

天龍自体のこれまでのファイトスタイルは、ショーマン派に全く付き合わず、決して逃げない代わりに相手にもそれを求めるファイトを見せてきた。

今回のこのマッチメイクは、全日本プロレスがエース天龍への新しい方向性、いわば”踏み絵”のようなものではないかと私は当時考えていた。

つまり、天龍同盟のアウトロー的エースではなく、正統派エースへの転向を促すものであると。そして、それは天龍にとって決して望ましいものではなく、また天龍がかつての鬱屈したファイトに戻る原因になるのではないかと、勝手に心配していたのだ。

しかし、結果は全くそうではなかった。

とんでもなく面白い、興奮した試合になったのである。

天龍もうまかったが、それ以上にランディ・サベージというショーマンだと思っていたレスラーに、めちゃくちゃ実力があったのである。

天龍のファイトに付き合った訳でもなく、サベージのショーマン的なレスリングに、観客も完全に飲み込まれて、良いように踊らされていたのだ。

TV映像で見ると、観客が本気で興奮しているのがわかる。私もTVで見てそうだった。

試合前、試合中、試合後に、試合のひとつひとつの展開に、観客が波打ち、うねるように反応している。まさにこの試合は観客にとっても別格だった。おそるべし。

試合を以下に追って分析し、サベージのすごさを示してみたい。

驚くことに、サベージは、ほとんど技という技を使わないのだ。それでいて、リングを立体的に使うことで観客の視線をコントロールし、試合を複雑化している。

そして、試合時間のうち、ほとんどの試合時間でサベージの攻撃となっており、終始試合をリードしている。

0:00(試合経過時間、以下同じ)
ゴング、既に女子マネージャのシェリー・マーテルとともに、観客へのアピールは十分され、観客はヒートアップしている。なかなか組み合わない。サベージが天龍にロープへ振られるが、場外へエスケープしてかわす。その後コーナーポストに登ってアピール、観客ブーイング。

2:40
ようやく最初のロックアップ。
ブレーバスターの態勢から両者持ち上げるも上がらず、天龍が持ち上げるがサベージがかわして天龍の背後に着地。天龍は振り向き様に、逆水平チョップを喉元に打つ。その数13連発。天龍同盟で見せた、あの逆水平チョップである。コーナーポストにハリツケ状態でサベージ耐えるが、最後は崩れ落ちる。ここで、最初の見せ場がやってきた。天龍は雄叫びを上げる。
私はこのシーンは初見で一番感動した。ショーマン派レスラーが嫌う喉元へのチョップを何発も受けたサベージに対して、”こいつ本気でこの試合をやる気じゃん”と思った。

3:58
天龍がサベージをショルダースルーで場外へ。サベージはトップロープを掴んで一回転しながら場外へ転落。とにかくリングを垂直的に使う。その後マーテル介入により場外乱闘は一貫してサベージペースで天龍は攻め込まれている。放送席で徳光アナや一般の観客が本気で怒っているのがわかる。

6:00
リング上の攻防で天龍の延髄斬りが決まるが、足を痛めたか攻め込めず、体勢を立て直したサベージのラリアットを受け、ペースを握れない。サベージの攻撃、チョーク、パンチからフォール。カウント2。

7:07
サベージが天龍をロープに振ってラリアット。ロープを掴みながら、足でチョーク。更にマーテルが介入し、天龍はリング下へ転落。

7:58
リング下の天龍に対してコーナーポスト最上段から飛んで、得意技であるダブル・スレッジ・ハンマー!
(解説の竹内さんが教えてくれた)その後はマーテル介入により、天龍が一方的に攻め込まれる。
場外フェンス外でグロッキーの天龍。

9:05
天龍をリング内に入れて、コーナーポスト最上段から2回目のダブル・スレッジ・ハンマー。カウントは2。

9:30
サベージが天龍をボディスラム。ニーパッドでフォール。カウント2。

9:51
サベージ、別のコーナーポスト最上段に登る。解説の竹内さんが「そろそろエルボーですかねぇ!」
最上段でじっくり時間を溜めた末に、ダイビング・エルボー・ドロップが炸裂。フォームが美しい。
フォールでカウントは2.5。いよいよ天龍ピンチ。
しかし受ける天龍はさておき、ここまでのサベージの連続攻撃の運動量がすごい。だが、スタミナが全然切れていない。

10:18
再びサベージ、コーナーポスト最上段へ。3発目のダブル・スレッジ・ハンマーを狙うが、ここで天龍がボデイへのパンチで切り返す。素早くサベージを捉え、天龍の必殺技パワーボムの態勢に!観客総立ち!
・・・しかしサベージが踏ん張り、リバースで返す。まだスタミナあるのか。観客いっせいにため息。

10:40
またまたサベージはコーナーポスト最上段へ。今度はフライング・ボディ・アタック!
しかしここでサベージが膝を痛める。ちょうど前かがみになった姿勢に、天龍が延髄斬り!
そして今度こそパワーボム炸裂!カウント3が入り、観客が皆歓喜で飛び跳ねて、TV画面はすごいことになる。

第9試合
シングルマッチ60分1本勝負
天龍源一郎 vs ランディ・サベージ(w / センセーショナル・シェリー・マーテル)
○天龍(10分49秒・エビ固め)×サベージ

試合後天龍が小さくガッツポーズ。これも印象深い。”やったぞ!”という思いなのか?

経過を見ていくと、ほとんどサベージの攻撃だということがわかる。しかも、パンチを中心にした単純な組立であるが、まるでそれを感じさせない。

コテコテのマネージャ介入による反則などまさにヒートを買っている状態であるがゆえに、切れ目切れ目の天龍の反撃もインパクトを与えている。

また大会場であることも考慮して、コーナーポストをフルに使った立体的な視覚にも訴えかけている。

そして、最後のパワーボムに至る、1回目失敗→その後の成功によるカタルシスへのスピード感がある流れ。

まさに名試合だった。

サベージのうまさばかり書いたが、天龍のうまさも当然ある。

私はもともと天龍ファンなのであるが、それを差し引いても、この試合のサベージはすごかった。

繰り返すようだが、基本的にパンチなどの打撃しか使っていないのだ。

むしろショーマンレスラーだったら過激な技をバンバン使いそうだが、スープレックスなんかほとんど出さず、基本技のボディスラムがたったの1回だけなのである。

サベージに一流レスラーの凄みを見せられた思いで、WWF(現在WWE)についての思いも少しこの時から変わっていったと思う。

未だにこれを超える試合がないと私は思っている。

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