マッサージの老婆に視力が低下する秘孔を突かれた話


あれは15年くらい前の話だ。

今はもうなくなってしまったスーパー銭湯での出来事である。

中でくつろぎ、全巻揃いのマンガを読んでいた。

確か『包丁人味平』(牛次郎、ビッグ錠)だったと思う。

「カレー戦争編」に突入する前に、風呂に入ることにした。サウナも合わせ、その後に、マッサージも予約しておいたのである。

サウナは普通だったが、マッサージが私の人生で最もきつい体験だった。ものすごく痩せた老婆が施術者で、その施術がとんでもなく痛いのである。

自分が痩せていて非力なのを施術者本人が自覚しているようで、自分の体重+骨の鋭角を最大限利用する技を駆使してきた。

背中のマッサージの際には、上に乗って足の親指のみで立ち、ツボを1点集中で責める。
更に肘の鋭角部分を利用して、ツボを攻めてくる。

接触表面積が極小なので、はっきり言って、施術中の40分は錐で突き刺されているようであった。「刃牙」の消力と同じ原理で、老人のくせに局所集中がすごいのである。

「もう少し弱く」と伝えても、本人の力覚センサが狂っているのか、気持ち弱くなる程度。全く緩和されない。

とにかく地獄であった。

とりあえず終了し、フラフラになりながら、もう一度風呂に入り、再度『包丁人味平』の続きを読み始めることにした。

すると、私の体に異常が起こっていることに気づいた。

マンガを読めなくなっているのである。

視野全体がぼやけ、フキダシのセリフが読めない。絵がぼやけている。先ほどまでと同じマンガなのに。

・・・・やられた。秘孔を突かれた、と思った。

視力を落とす秘孔を突かれたに違いない。なんという技量・・・って感心している場合ではなく、回復の秘孔を探して突いてもらわなくてはいけない。トキ兄さんは近くにいるのだろうか。

こんなスーパー銭湯に北斗神拳の使い手がいたとは!

 

 

 

 

結論は違っていた。あの施術者は単なる非力でマッサージのうまくない人間であった。

では、私の体に降りかかったこの謎はどのように解けたのか。

原因はメガネにあった。

マッサージ前に風呂で水分をつけたままのメガネをつけてサウナに入ったことにより、メガネ表面のコーティングが部分的にまだらに剥離したことが、視野をぼやけさせた原因であった。

その後、購入したメガネ屋に持って行って修理ができるのか聞いてみた。

「修理できません」

であった。とほほ。買い直しとなった。

ということで以来、メガネを持ってサウナに入ることをやめた。

その結果、横山やすし状態で、サウナでキョロキョロする羽目になっているが、メガネがダメになることを考えれば構わないのである。

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