【上流設計】設計におけるクリエイティブとは:白紙に最初の点を書き込む人とそれを受け継いで育てる人


ビジネスは永続した利益創出を使命とする以上、常にイノベーションを生み出すことが必要になる。

とはいえ、イノベーションを生み出すことはそう簡単なことではない。誰もが手順を踏んでできることではないからだ。

ここではイノベーションを生み出す、という方法論では無く、そこに携わる要員配置について考察してみたい(大上段だな)。

製品のライフサイクルには、①導入期②成長期③成熟期④衰退期というサイクルがあることは良く知られていることと思う。それぞれのフェーズにおいて、企業が利益を最大化する戦略は異なる。

少しだけ例をあげると①②の状態で先行している場合には、その時点で先行者利益を十分に確保し、③のレッドオーシャン化の前に引き上げ、次の市場へ向かうという「先行逃げ切り戦略」や、②の後期までは後発で先行者の状況を十分見極めた段階で遅れて参入するも規模感を元に低価格勝負を仕掛け③で市場を支配するという「二番手戦略」などがあるであろう。実際の戦略はもっと複雑であることは言うまでもない。

ここで、①②③④のフェーズにおいて、どんな適性を持った人間にその責任を持たせるかは、経営上の大きな課題であり、これも良くケーススタディとして挙げられる問題だ。

大きな企業でありがちなのは、成功した製品があり、③④のフェーズを迎えてきて、次の新製品を探す場合に、その既存事業の責任者を次の担当としてしまう場合である。ちょうど既存製品も売り上げが落ちてきたことだし、そこのエースを次の製品のイノベーターにしよう、といった形である。

しかし、③④の成功事例と①②の成功事例は通常異なる。方法論も大きく異なる。③④では成熟した市場において、いかに利益を最大化させるかが目的であり、①②は何もないところから、新たな儲けのタネを見つけ出すということが目的であり、それぞれ得意とする適性は異なるのである。

言い方を変えると、既存製品を改善、修正することと、新たな製品を生み出すことは全く異なるパフォーマンスなのである。もちろん両者を兼ね備えたスーパーパーソンもいるだろうが、極わずかである。

「設計」という作業でも同様のことが言える。「設計」(ここでは機械設計を例にとる)というと、CADを使って図面を書くというイメージがあるが、実際の現場では全く異なる。図面を書くという行為はどちらかというと「製図」であり、設計の最終工程に位置する。それ以前に、その製図を行う前提条件を決める、数値計算、配置の検討、要求された機能を満たすための構想のフェーズがあり、この前工程が製品の性能、コストの大きな部分を占める。

機械装置を作るためには、要求元(顧客やコンシューマ)の要求仕様や法的規制があり、数値計算により必要な諸元を決定し、これらを前提条件として経済性も含めた”ざっくりとした”製品コンセプトを決め、要求元と合意する作業もある。企業によっては営業のセクションが実施するが、これも広義の設計である。これが決まらないと、いわゆる機械設計者は全く手を動かせない。高価で強力なCADツールを保有していても、何も動かせないのである。

この要求元との交渉を、仮に基本設計、概念設計、構想設計などと呼ぶが、ここで製品の性能あるいはコストの大部分が決まる。すなわち、実際にはここで要求元からのベンチマーク、いわゆるコンペがあった場合には、ここでの設計能力が、製品の競争力を決め、ひいては企業の競争力になるのである(そこで仕事を受注できなければその後の設計の仕事がなくなることは言うまでもない)。

これについても前の製品ライフサイクルと同様のことが言える。やはり、基本設計を行う設計者と、CADなどを使用した詳細設計を行う設計者には適性が異なるのである。これを間違えると大きな人事上のミスマッチになるが、この点はあまり重要視されていないと思う。

基本設計は、白紙の状態の紙に勇気を持って最初の点を打ち、線を書く人間である。その点や線は後から詳しく見ると正確な点、線でなくても良い。いわばラフスケッチである。しかし、そのラフスケッチをしない限り次の仕事に移行できないから勇気を持って実行するのである。

詳細設計は、そのラフスケッチを元により詳細、精細に絵を描いていく。

どちらも最終的な絵のクオリティに対して必須の作業である。しかし、いざ「設計」というと後者の方が世間のイメージに近く、クリティティブな仕事と思われているのではないか。基本設計というジャンルは、それより前の営業だったりマーケティングのような業務と見なされ、クリティティブとは異なる文脈で語られることが多いように思える。

私自身は、そこには異議を唱えたい。むしろクリティテブ、イノベーティブなのは白紙に最初の1筆を書く人間であると。そしてあまり重要視されていないが、その瞬間には、ものすごい勇気を持った決断力が必要なのである。

追記:私が知る限り、やはり優れた会社は、基本設計に技術のエースを置くことが多いと思う。いわばその製品技術全てに精通した人間にその仕事をさせることが多い。

追記2:そんなこともあり、個人的には設計工学でミシガン大の菊池先生が提唱された「FOA」(First Order Analysis)の考え方に非常に興味を持っている。CAEの考え方よりも重要と思うが、あまり人口に膾炙していないような気がするのが残念だ。

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