【書評】『吉田豪の”最狂”全女伝説』を読んでノスタルジックな気分になる


女子プロレスには思い入れがある。

世代としてはクラッシュ・ギャルズ世代であり、テレビ中継での極悪同盟との抗争に熱狂した。社会人になった頃には全日本女子の経営悪化、GAEA JAPANの台頭などの状況変化があり、時間とお金に余裕が出来たので会場に良く足を運んだりしていた。

全日本女子プロレスは、やはり経営危機になった後の頃の思い出が多い。

目黒でのガレージマッチなどを観戦していたら「週刊プロレス」の試合写真に観客として写り込んでしまい、会社の同僚や上司にバレて非常に恥ずかしかったことを覚えている。

多摩地区の全日本女子の興行は、極悪レフェリーとして知られる阿部四郎がプロモーターであった。

この興行では、試合途中に謎の演歌歌手の歌謡ステージが結構な時間あったり、リングサイド最前列の席を買ったはずなのに、何故かさらにその前に列があって、そこに明らかに堅気で無い人が水商売らしき女性を連れて座っている光景など、懐かしく思い出される。

ガチンコだ八百長だと物議を醸していたプロレス業界で、何故か全く独立な意味合いでガチンコ(真剣勝負)の小世界が存在していたことも、ある意味時代の先を行っている。

会場に足を運んでいた頃は、社会人になって色々と社内政治的なもどかしさを抱えている中で、実力の世界で精一杯表現している女子レスラーの姿に非常に勇気付けられていた。デビューした彼女たちと社会人として揉まれる自分を重ね合わせ、”同期”のような存在であった。

私にとっては、当時全日本女子では中西百重(既に引退)、GAEA JAPANでは里村明衣子(現在も仙台女子プロレスで現役)が気に入っていた。二人は1990年代後半デビューで、未来のエース候補であった。業界が沈下しなければもっとメジャーな存在になっていたはずである。

もちろん”デビュー”時期は同じでも、年齢は向こうの方が遥かに年下である。でも、先輩たちのシゴキに耐え、戦いながらハングリーに自己鍛錬し、もがいていく様は、当時の社会人デビューしたペーペーの私から見ると素直に敬意を覚えていた。

女子プロレスは本来、もっと報われていい世界だと思う。

そんな昔のことが、あれこれと想起される女子プロレスのインタビュー集である。Amazonで予約して購入した。

やはり期待通り、”デタラメ”な世界がそこにあった。経営者である松永ファミリーがとにかくめちゃくちゃなのである。お金などのトラブルも多数ある。しかし、それでいて、ここに出てくるレスラーは「全女」=「松永ファミリー」を完全に嫌っている訳ではなく、ある種の故郷のように語るのである。

一番面白かったエピソードは、ミゼットプロレスラーと松永ファミリーの”交流”で、確か事務所の屋上にプレハブを建てて住まわせていたと記憶している。私が直接試合を見たのは、リトル・フランキー、角掛留造、ブッダマンくらいであろうか。

松永兄弟はミゼットレスラーをどこにでも連れていくらしい。「銀行とかの大事な契約の時にも連れて」行ったらしい。ここは銀行の応接室とミゼットレスラーが何故か横にいるシュールな光景が思い浮かんできて、思わず笑ってしまった。

彼らもまた私の原風景の中にいる……ただ直ぐ思い出されるのが会場入場時に角掛留造に1,000円追加支払うと席がアップグレードできたこと位だけど。

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