【書評】川原泉の新刊『バーナム効果であるあるがある』を読んだ


川原先生の6年ぶりの新刊が出たので、早速読んでみた(湯河原温泉旅館で)。

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上記記事でコメントしたような、絵柄の硬質化=教条主義は残念ながら変わっていない。

また、川原先生の、”間違った楽屋落ち”の傾向も相変わらずそのままのようである。

川原先生のマンガのコンテクストには、何層もの地層のように形成されている”レイヤー”があるように思える。

①物語のレイヤー:これは完全な創作された物語の本筋

②なんちゃってレイヤー:今回の火星人グレイのような、創作のレベルではあるが、シリアスでは決してなく、おふざけに近いレベルの物語の筋。川原先生の自己韜晦や照れの部分の反映として現れる

③物語上の作者のレイヤー:カーラ君、友人Mのような川原先生自身のいわゆる楽屋落ちのレイヤー

④リアルな川原先生自身のレイヤー:ここは、川原先生が持っている人生体験や心理傾向、父性思考、ブラコン的な精神性の領域

これまで①と④の領域を往還する形で傑作を描いて来た川原先生が、②や③のレイヤーを作品世界に交通させたことは、一見無関係のように思えるが、前回記事で記載した絵柄の硬化傾向と相関があると思う。

今回の『バーナム効果であるあるがある』は、②のコンテクストとの連絡通路が多く描かれ、①の筋にノイズとして混入してしまう。正直言って、絵柄の硬質に加えて、物語として共感ができないのであった。

①の物語の主役たる二人も、そのキャラである必然性があまりない(バレーボール部のエピソードはそもそも関係あったのだろうか)。

川原先生と共に歩んでいるオッさんとしては、川原先生の真骨頂である①と④路線を往還する徹底した物語を読みたいと切に願うのである。

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