修羅場をくぐる経験の必要性ー国産民間ロケットの開発を応援する


 今年6月末に民間ロケット打ち̅上げが失敗し、炎上した。

 このロケットの打上げ失敗は二度目でもあり、色々な報道がなされている。

 産経新聞の記事(「小型ロケットの打ち上げまた失敗 発射直後に爆発炎上 北海道大樹町のベンチャー企業」2018.06.30)から引用すると

 北海道大樹町のベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」は30日早朝、同町の実験場で小型ロケット「MOMO(モモ)」2号機の打ち上げを行ったが、直後に落下して爆発炎上し、失敗した。同社によると、けが人はいないという。

 引用終わり

 上記のような動画映像でも流れており、ロケットが墜落、炎上する”事故”映像はなかなかインパクトがある。

 昨日(7月20日)の日経記事(有人」「費用減」両立の壁 民間ロケット「MOMO」2号機 失敗 小型衛星の需要対応急務 )で、少し背景を含めた分析がなされている。 

「将来は人を乗せて飛ばしたい」と語る高い志と、コストを抑えたいという民間ならではの 事情が、困難な挑戦をさらに難しくさせている。

モモ2号機は全長10メートル、重さは約1トン。高度100キロメートルの宇宙空間を目指していた。激しく燃える姿はロケット開発の難しさを印象づけた。

引用終わり

 上記記事に書かれているように、確かにその炎上の映像はなかなかショッキングであり、それに記者自身も引きずられたように、今回のプロジェクトの困難さと深刻さを強調した記事になっている。

 しかし、私は敢えて今回の「失敗」映像、即ちロケットが推力を失い落下して炎上する様は「美しい」と思う。急いで付け加えるならば「美しい失敗」の映像に見える。技術者として大きな「可能性」が見える映像に思えるのだ。

 新しいものを開発する経験をしたことのある人々は理解しているであろうが、数限りない試作を行い失敗を繰り返した末に完成品ができる。

 ロケットという「製品」は確かに規模が大きく、1回のリスクが大きい。

 しかし開発プロセスそのものに失敗の無いものはなく、むしろ 「良い失敗」を繰り返し、その経験を蓄積しフィードバックしたプロジェクトこそが本当に成功するのである。

 失敗を殊更にアピールして、コストだリスクだと、深刻さを表現するのが最近のビジネス環境に横溢している。失敗を恐れて挑戦しない。そのくせ、新しいチャレンジ精神がないことを危惧するという分裂気味の論調が溢れている。

 失敗を恐れるな、と言い、その同じ口から失敗を責める。

 こうした内部、外部からの一律な”正論のノック”は単純にプレーヤーを萎縮させてしまう。正論や理想論を語るベンチのコーチや観客席の観衆ばかり多くなり、グラウンドでプレーしているプレーヤーはひたすら消耗している。本当にそれで良いのだろうか。観客席はそんなに心地よいのだろうか?

 今回の「失敗」が本当に良いものかどうかは今後の検討を待つしかないが、失敗は大きな経験である。そこには汲み取るべき多大な知見が含まれている。これをひとつのデータと考えれば、今回の開発者たちは貴重な技術的経験ができたと言える。

 先に述べた「失敗」しない開発はない、という意味を掘り下げると、仮に一度も失敗が無く終了したプロジェクトよりも、失敗を繰り返したプロジェクトの方が、私の経験上信頼できる。

 製品が市場に出たあとに、新たに潜在的にあったリスクが顕在化し、トラブルに発展した場合、失敗を繰り返した経験に裏付けられたプロジェクトの方が問題把握力、解決力に優れていると思う。

 いわば”修羅場をどれ位経験したか”が、製品のライフサイクルの中で勝負になる場面は必ずあり、一度も失敗しないで辿りついたことが必ずしもアドバンテージにはならないと私は考えている。

 もちろん失敗の原因を分析し、きちんと正しい形で本質的是正処置をすることにより、恒久対策に落とし込むという管理プロセスが必要なのは言うまでもないことであるが。

 最近のIT技術の進歩により、仮想的な机̅上検証の精度が上がっている中で、こうしたリアルな失敗はショッキングな要素を含む。もっとも危惧するのは、こうしたことが開発が本来すべき「良い失敗」「正しい失敗」自体を否定する動きに加担してしまうことである。それはあってはならない。

 「フロントローティング」や「試作レス」と言った上流設計志向により、開発期間を短縮する圧力も高まっている。しかし、最後はバーチャル空間ではなく、リアルな実体で勝負することになることは変わらない。そこを忘れてはいけないと思う。

 つまり、こうしたリアルな失敗は、正しく「するべき」なのである。

 繰り返しになるが、今回の「失敗」を貴重かつ有益な経験とすべきであり、その”修羅場” から得られる経験はこの開発者たちの今後の大きな糧になると信じている。

 かくいう私だって、これほどのスケールではないが*億円する装置を、検収前の試運転で設計ミスに起因する不具合で壊してしまったこともあるのだ(威張ることではない)。

 なので1回や2回の墜落くらい気にするな!と励ましてあげたい。

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