【書評】サキ傑作選(ハルキ文庫)–鋭すぎる針のような小説群は頭の良い人に余命宣告をされているような気持ちになる


 「サキ傑作選」(ハルキ文庫)を読んだ。以前、岩波文庫の「サキ傑作集」は読んでいたが、あまりダブりはなく、相変わらずの切れ味鋭いブラックな短編小説群であった。

 本書は230ページで25編が収められている。岩波文庫では206ページで21編であり、いわゆるショートショートのようなサイズである。

 内容はどれもブラックであり、残酷な結末も多い。

 ”奇妙な味”の小説の系譜に連なるだけあって、読み終わった後に、若干モヤモヤした余韻が残る。

 しかし、簡潔な文体とスピーディなテンポで残酷な結末でありながら、それもまた一つの真理として許容せざるを得ないような気持ちにもなる。

 例えると、物凄く頭の良い人に余命宣告をされているような気持ちになるのである。

 とはいえ面白いことには変わりない。同様のサイズである新潮文庫の「サキ短編集」と上記2冊の重複は「開いた窓」「話上手」「夕闇」(表題はハルキ文庫のものに拠った)の3編であり、これらはやはり面白い。

 それ以外でも喋る猫をめぐる騒動「トバモリー」や、怪奇小説の名編「スレドニ・ヴァシュター」などすでに評判の高い傑作が揃っている。

 また新潮文庫、岩波文庫に収録されておらず、ハルキ文庫だけで読めるものとして面白かったのは、婦人参政権論者を倫理的に極めてまずい形で皮肉った「祝祭式次第」、ギャンブル狂によるユーモア溢れる「賭け」などがある。

 どれも短編であり、隙間時間に読める。古典扱いされつつも、通俗的ではなく十分読み応えのある小説群である。

 

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