【書評】アイザック・アシモフ「ファウンデーション」–文明の歴史そのものを対象としたSF叙事詩の第1作

 アイザック・アシモフ「ファウンデーション」を読んだ。1942年から継続発表された「銀河帝国興亡史」シリーズの第1作である。

 遠い未来。人類は宇宙の広域に進出し、巨大な科学文明を築き、「一千兆の人間」を抱え「一万二千年」の長い期間にわたり、栄華を尽くしてきた。この「銀河帝国」を舞台とした壮大なSF叙事詩である。

 この「ファウンデーション」では、その銀河帝国の崩壊(の予兆)から始まる。

 心理歴史学という架空の学問が設定される。これは統計力学における気体分子と物理量のように、文明というマクロな社会現象を対象として、その未来を高精度に予測することを可能にしたとする。いわば、科学的な意味での「預言」を可能にしている。

 この心理歴史学の確立者であるハリ・セルダンは、銀河帝国が近い将来に不可避的に崩壊することを、心理歴史学のモデルから預言した。そして崩壊後には、無政府状態、野蛮と破壊のフェーズが訪れ、その期間は「3万年」に及ぶ停滞が存在することも同時に預言した。そして、人類のために、この停滞時間を1000年に短縮するプロジェクトを立ち上げるところから始まる。

 その解決手段の「ひとつ」が、来るべき無政府状態において人類の知的遺産を散逸させず保存する組織「ファウンデーション」であった。

 この小説では、ファウンデーションを舞台として、文明の発展段階において直面する固有の「危機」(セルダン危機と呼ばれる)と、その超克が描かれる。

 そして、それは我々が知っている人類の文明の発展をなぞるかのように、発展段階において解決手段が異なる。つまり、歴史の発展によって、その都度、乗り越えるべき課題がより高位となり、歴史的役割を担う人間も変わる。

 いわば、旧世代の権力者は、新世代には抵抗勢力となり、新世代によって乗り越えられる運命にある。こうした歴史のダイナミクスが物語の中心となっている。

 本書は壮大な歴史の流れ自体を小説の対象とし、こうした文明の転換点における「セルダン危機」に対する、文明の成長を描いている。ここから、SF的な対象を除去すると、この小説自体は、文明の発展と衰退の物語、歴史そのものが対象となっている。パワーバランス、宗教、交易、技術主導の国家運営など、人類の歴史を対象として予想したものともいえる。

 時代的には第二次世界大戦前から書かれたものであるが、こうした状況が小説の世界観に直接的に反映されているとは見えず、現代的に見て全く古びた要素がないのは非常に驚かされる。

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