【書評】新型コロナウイルスが猛威を振るう中の出張の東海道新幹線車内で読んだバイオパニックものの傑作、安生正「生存者ゼロ」


 2020年に入り、武漢発の新型コロナウイルスは終息の兆しは見られず、社会生活にダメージを与えつつある。私の周りでも、武漢渡航のチャーター便に乗って帰ってきた同僚とか、中国出張禁止といった直接的なものから、感染経路が不明なものまで出てきたことによる”大人数での集会”すら自粛されるような動きになってきた。

 そんな中、東海道線下りで関西方面日帰り出張が入った。先日も感染者が発症後に東海道新幹線を利用したとかで、ちょっと不安がよぎるが、まぁバランスをとって生活するしかない。

 そんな出張の車内で、偶然家にあった未読の安生正「生存者ゼロ」(宝島社文庫)を読んだところ、あまりのタイムリーさに一気読み。非常に興奮した。第11回「このミス」大賞だけあって、非常に重厚なスペクタクルである。

 序盤に展開される人間を襲う、未知の”感染症”。生物学的な知識で、謎を解き明かされるのだが、この”謎”自体に大きな仕掛けまであり、この拡大を抑えていく立場の日本政府、自衛隊の政治・行政組織の無責任体制なども描かれ、現代の縮図のようになっている。

 この大スペクタクルドラマで描かれている構図とは、自然に対峙する人間であり、この自然とは地球が生まれて以来、あらゆる生物が進化する歩みの中での種の発展と絶滅におけるイベントである。

 この生物進化の大きなイベントに、我々が、今、ここでもしかすると立ち会っているかもしれない、というリアルタイム性も思わせる2020年初頭の東海道新幹線車内の読書体験であった。

 

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