【書評】ジョナサン・ラティマー「処刑6日前」(創元推理文庫)カウントダウン・サスペンスの傑作だが、惜しむらくはポリティカル・コレクトネスが気になる


 ジョナサン・ラティマー「処刑6日前」(創元推理文庫)を読んだ。1965年発行で、文庫の装丁は司修である。

 死刑を6日前に控えた死刑囚である主人公ウェストランドが自らの無実を晴らすことを決心する。限られた時間、死刑判決を受け身柄は刑務所にある。その限られた制約の中で、知恵を絞り、犯人を探してゆくストーリーである。

 しかし彼が陥った「妻殺し」の事件は密室殺人であり、アリバイも含め全ての証拠がウェストランドに不利な状況であった。こうした極めて制限のある環境下で、弁護士や探偵を雇い、自らの事件を調査していく。

 ウェストランドは刑務所に収監されているので実質的には探偵であるクレーンとウィリアムズのコンビが物語を進行させ、謎を解いてゆく。

 こうした骨太な構成に加え、酒ばかり飲んでいる探偵クレーンのキャラクターも加え、更には昔のアメリカの風俗状況も加わり、飽きさせない構成となっている。章立ても時々刻々と処刑までのカウントダウンとして設定され、緊迫感を与える。

 密室の謎解き、アリバイ崩し、論理的な予測による凶器の発見、犯人探しなどミステリーとしても盛り沢山である。

 ただ惜しむらくは古典的作品であるが故の、当時のアメリカの風潮が過剰に入っていることで、いわゆる「人種差別」的な要素も満載になっていることは指摘しておきたい。下働きをするキャラクターは漏れなく非アメリカ人(非白人)であり、暴力表現もそうした人間に与えられている。日本人もその例外ではない(比較的軽微だが、軽微だから良いというものでもない)。いわゆる「ポリティカル・コレクトネス」の観点からは、完全アウトな作品であろう。

Share