【書評】田中光二「異星の人」人類の「発展の限界」を描く、叙情性に貫かれたSF


 田中光二「異星の人」(ハヤカワ文庫)を読んだ。昭和52年発行のハヤカワ文庫の初版である(どうでもいい情報)。

 SF第二世代にあたる著者であるが、読んだのは初めてである。

 表題通り、いわゆる異星人の視点で人類の”種としての文明”を客観的に捉え、その”進化”について問いかける内容である。それ自体は、小松左京「明日泥棒」のようなSFの持つ、人類の文明や歴史を俯瞰的に捉える文学的課題と同じであるが、本書はそれとは異なる特質もある。

 それはこの観察者、ジョン・エナリーのキャラクタ造形、そして彼自身の意思決定に至るプロセスの特色でもあり、また本書に収められた8本の中編それぞれに現れる極限的状況におけるカウンターパーソンたちの極めてリアリティのある造形である。

 我々人類が持つ「矛盾」、ヒューマニズムと残虐さ、知性と本能といった二律背反的な特質に、超・人類的存在であるエナリー自身が悩み、また、そのカオスさそのものを理解しようとする。しかし、それは超・人類的存在的な観点からは、文明としてのレベルアップがこれ以上望むべくもない「発展の限界」とも言える。

 その「限界」に直面するエアリー自身の運命がラストに描かれ、全編が叙情的な雰囲気に貫かれている。

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