【書評】矢野徹「カムイの剣」–日本SF第一世代による幕末を舞台にしたSF大冒険活劇

 矢野徹「カムイの剣」(角川文庫)を読んだ。いわゆる旧版の1巻本で、1975年発行の初版本である。

 アイヌと和人の間に生まれた主人公が、自身、そしてその親をめぐる大いなる謎を解くべく、東北、北海道、オホーツク、ベーリング海峡、アメリカ、そして幕末の日本を舞台に駆け巡る。そして、彼の敵となる忍者軍団との戦い。

 とにかく大量の”材料”が仕込まれている。上記のストーリーラインだけでなく、アイヌ文化、漢籍、隠れキリシタン、安藤昌益、マークトウェイン、ネイティブアメリカン、西郷隆盛など、SFが持つ特徴の、異種結合タームも大量に駆使され、一気に読んでしまう。

 奇しくも解説の星新一が、彼らしくクールにサラッと指摘しているように、本作はデュマ「モンテ・クリスト伯」と小説構造は相似している。

 度重なる苦境、閉塞した空間での師匠による教育と成長、秘宝の探索、秘宝の秘匿、超越性を身につけた「変身」、強大な力による復讐、と言った時系列構造がまさに「モンテ・クリスト伯」を読んだ際のドキドキ感とそっくりなのである。

 だが、それが特に本作の瑕疵にはなっておらず、むしろより大きなスケール、テーマを与えた点に、矢野徹のオリジナリティがあると思われる。

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