【書評】山田正紀「氷雨」–どうしようもない”孤独感”が際立つサスペンス

 山田正紀「氷雨」(ハルキ文庫)を読んだ。

 ミステリ形式であるが、むしろ挫折した男が孤立無援の逆境の中で、ひき逃げにより交通事故死した前の妻子の死因の謎を解き明かしていく疾走感のあるサスペンスである。

 とにかくこの主人公は、負債を抱えて会社を潰し、借金取り立てから切り離すために妻子と離婚し、たった一人である。そして彼を取り巻く周囲も、彼に協力的ではない。むしろあらゆる手段で彼を”潰し”にかかる。

 暴力的な金融の取り立て役、乗車拒否するタクシー運転手、腐敗した警察官、生命保険を目当てに群がるブローカー、非協力的な妻の妹夫婦など、個性的なキャラも多数出てきて、それぞれがある一面では取引により協力するが、決して主人公と融和することはない。

 読者は、この逆境につぐ逆境の中で、ミステリーとして主人公を救済するであろう”探偵役”の登場を期待しながら、常に裏切られるのである。

 そう、結局のところ、主人公が徒手空拳で孤立して謎を探る以外の方法がないのである。

 この小説は、謎解きの要素も含みつつ、こうした周囲から孤立してなお、その事実を前提として生きていくしかない個人の生き様を強く示唆するようなイメージが横溢しており、どうしようもない孤独感がそのテーマとして横たわっているように思える。

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