もう一人の俺が仮想通貨で借金して親にお金を無心するというのを実家で待っていた話:オレオレ詐欺orアポ電強盗に遭遇した

 先日のことである。

 本厚木駅の立ち飲み屋「三百文」で一人、芋焼酎のお湯割を飲んでいた時のこと。携帯が鳴った。

 発信者は私の老母である。キャッシュオンのため、気を遣うことなく立ち飲み屋から一旦外に出て、電話をとる。

 母「○○(私の名前)、いまどこ?」

 ぼく「会社だけど(と嘘をつく)」

 母「…やっぱり。さっきのは偽物だったのね。実は今さっき電話があって”〇〇(私の名前)だけど、今から行っていい?”という電話があってね」

 ぼく「なるほど。オレオレ詐欺みたいね」

 母「声が違うからどうしたの?って言ったら”エアコンつけて寝てて”というのよ、それでそうなのかな、と思って」

 なんか典型的な騙され感あふれる展開なのである。

 ぼく「で、どうしたの?」

 母「いや、また改めて電話する、って言うから」

 ぼく「警察に電話したら?」

 母「そうね。そうする」

 ということでこの問題は落着したのかと思っていたのである。しかし、再度母親から電話が。

 母「警察に電話したら、これは現行犯逮捕したいので、そのまま話に乗って下さいって言うのよ。また次に電話がきたら、騙されたふりをしてくれって」

 ぼく「…囮り捜査みたいだけど、めちゃくちゃ怖いじゃないの」

 何か知らないが、そうなると私の実家にもう一人の私が来るかもしれないのである。まあ、それはないだろうが、今度はいわゆる”代理の人”が来るのであろう。しかし、それにしても電話という情報レベルから、直接的な物理的世界にフェーズが近づいてきた訳で、これはリアル犯罪の匂いがしてきて結構怖い。

 仕方ないので、翌日会社を休み、早朝に実家へ行くことに。

 私の考えとしては、まあ警察の考えもわかるが、こちらとしても当人のリスクが高いので、そこをリスクヘッジしたい。

 そもそも老夫婦がすでに電話レベルで騙されそうになっているので、さすがに物理的にリアルな息子が近くにいれば、バーチャルな息子が繰り出す会話の動揺作戦には惑わされないであろうという戦略でもある。

 早朝に自宅へ入る。

 警察によると「これはオレオレ詐欺ではなく、アポ電強盗の手口です。不在のタイミングや、現金がある家を特定し、そこで犯行におよぶ手口です。電話がきたら、とにかくすぐに110番通報してくれれば、すぐに自宅へ刑事部が向かいますから」とのこと。

 なんか、めちゃくちゃ怖いんですけど。

 アポ電強盗の場合、要するに自宅に押し入ってくるわけで、オレオレ詐欺とは全く様相が異なる。騙し、というより、手段が物理的な方法を行使してくる恐怖がある。

 更に、面倒なことに、私自身も今自宅にいても、第三者である警察に対しても私がリアル息子であることをすぐに証明できないのだ。つまり警察にとっては、ここにいる私が、犯人としてのフェイク息子なのか、リアル息子なのかはすぐに判断できないはずで、要するに下手に実家の周りをうろうろしたら、近くにいるとする警察によって、私が誤認逮捕されてしまう可能性もあるのだ。そんな感じで、実家の中に引きこもること6時間。ついに電話がきた。

 母「〇〇?大丈夫?」

 母「どうしたの?落ち込んで?」

 母「仮想通貨で?300万円の借金?会社には言えないの?」

 母「…こっちにお金なんてないわよ、年金暮らしなんだから。5万円くらいならあるけど」

 と言う会話。確かにここで用立てたら、家に誰か人がきてしまうギリギリの線。母親も囮捜査の限界を感じた模様である。

 その電話を聞きながら、

 父「お前、大変だな。そんな借金してんのか」

 ぼく「そうみたいね」

 と言う会話。

 結局もう一人の私は「また、少し考えてみる」と言う回答の模様。

 そしてその直後に警察とも連絡した結果「多分、もう来ないでしょう。来たとしても”息子と連絡した、警察にも通報してある”、と伝えてください」と言うことで捕物帳にはならずに済んだのであった。

 しかし、まだここでは終わらなかったのである。

 こんなこともあるので、今後連絡する際には、オレオレがかかってくる固定電話を使わず、携帯電話でやりとりをしようと、新たなルールを両親と決めたのであった。

 しかし、さすが老人、それを忘れてしまうのである。

 別の用事ができて携帯に電話。

 出ない。何度かけても出ない。近くに持っていないのか。

 仕方ないので、実家の固定電話に電話をする。嫌な予感がビンビンするのである。

 ぼく「もしもし、オレだけど」

 母「…もう警察に電話しました!」

 ぼく「いや、違う、本当のオレだから!」

 母「…もう、息子とは連絡しました!しつこいですよ!(ガチャン)」

 ということで、実の息子とすらも会話するチャンネルを喪失してしまったのである。

 ぼくがぼくであることをどうやって証明すれば良いのであろうか。

Share