最近のお笑いで注目しているのは、さらば青春の光、ゆにばーす、尼神インター、Dr.ハインリッヒ、金属バット、鬼越トマホーク、そして、このAマッソである。
Aマッソは結成8年、加納さん(ツッコミ;ネタ作り)と村上さん(ボケ)の女性2人組の漫才師である。
Aマッソの漫才を見て、ハイブロウ(high brow)な言語感覚をコテコテの関西弁に載せるという形式に驚いた。世間の評判も高いツッコミの加納さんのワードチョイスがやはり面白い。
いくつかの漫才から加納さんのツッコミフレーズの例を挙げると
・癇癪で乗り切ろうとすな、お前は、毛沢東の嫁か!
・思い出のアルバム、金数えるときのように丁寧にめくれ!
・(徳川15代将軍を順番に言うくだりで、2代将軍徳川秀忠を、”安藤”秀忠と姓を間違えてボケた村上さんに対して)下は合うとんか、秀忠は。お前、普段ボトムス中心にコーディネートするタイプやろ!
・村上、魂ガバガバやん!
・誰だってワンルームやし、誰だって五目ラーメンの引越し先やねん。
・すごい!コイツ(空手の)型で発言権取る!普通、アホは暴力で取るのに!
・もう料理ちゃうやろ、シンクロナイズドスイミングやん、あのショートカットの鬼コーチのババア来るで!
・(五目ラーメンの具の白菜を麺の支持で縦に揃えたい、という村上さんのボケに対して)支えてもらうことを前提に物事を進めんなって!仕送りもらうんなら、東京来んなって!(中略)自立しろって言うてんねん。白菜だけちゃうねん、タケノコにも言うとけ!親の名前借りんなって!なんやタケノコって、扶養外れろや!
と、村上さんのボケとセットで漫才としての効果が生まれるので、書き言葉ではうまく伝わらないと思うが、とにかく言語感覚が素晴らしい。
特に「毛沢東の嫁か!」は突然予想外のワードが頭の中に飛び込んできたのでびびった。この世代から文化大革命の江青を想起させられるとは思わなかった。
レギュラー番組は無いのかと探すと、静岡朝日テレビのインターネットテレビ局SunSetTVの番組「ゲラニチョビ」があった(いろいろあったが復活)。
この番組も記事執筆時点で既に36回を数えているが、初期「ガキ使」を見ているような攻め方である。企画に加納さんも入っており、やはり物凄い才能を感じる。まさにハイブロウである。
相方の村上さんも「ゲラニチョビ」の大喜利対決などでは、加納さんを超える爆発力を示しており、非常にバランスのとれたコンビであるといえよう。
「ゲラニチョビ」はアーカイブされているので、一気に視聴してしまった。おかげで寝不足である。
特に面白い回をチョイスする(リンク先に動画あり)。
「最近ウチらを舐めてる」後輩芸人のフワちゃんを説教する回だが、このフワちゃんが超ボジティブかつ強メンタルで、逆にAマッソを圧倒する回。
この回は大笑いした。
その後もハマったのか、フワちゃんはちょくちょく番組に登場しいつの間にかYouTuberである。フワちゃんに関しては別記事で書いてみたい。
・#28「TAXI」(ようやくリンク復活!)
漫才コンビ「金属バット」をゲストに迎えた回。おそらくゲラニチョビの中で最高傑作である。
「あんたらが忘れてまんのは、浪速のスピードですわ」(by 金属バット友保)ということで、なぜかタクシー2車に分かれてカーチェイスをするというもの。
運転手さんへの無茶振りも含めた2車内のやり取りだけで十分な物語性を作り出している。何をするのか全くわからない状況から、社内の関係性を作り上げ、じわじわと視聴者が”ゲームのルール”を理解し、このゲームの世界観が広がってくる。そしてそれを更にクライマックスに向けて拡大していく演者たち+素人(笑)。
色々とチャレンジしているため、地上波ではおそらく出来ない企画。
両方の父親が登場する回。親子対決に至る茶番が秀逸。両方とも親の個性がかなり強い上に、両家の対立構造を作るまでの、くだらない(褒め言葉)シナリオが面白い。企画力が優れている。
加納さんのオヤジが登場するが、これが噂の加納さんの大学授業料が払えず「あの〜ウチの船ね、3人乗りやった」(Aマッソの裏ミッドナイトダイバーシティー第2回)の言葉を吐いたおっさんかと思うと感慨深い。
・#1「モテすぎる村上をなんとかしよう」(現在リンク切れ中)
第1回目である。何気無しに街ブラ系(モヤさま風)かと思いきや、全く異なる展開に驚く。やはりここでも既に番組のラディカルな方向性が見えている。
漫才、コント、映像作品もでき、ある意味世間的にバカ売れする準備は十分であるが、先日、加納さんはゴッドタンの「腐り芸人セラピー」(2月3日、10日放送)に出演した。そこでの発言を見る限り、女芸人としての周囲からのステレオタイプな見られ方に対する苛立ちがあるようだ。確かにAマッソの漫才自体に「女性的」な部分は極めて少ない。
むしろ普遍的な面白さだけをストイックに追求する求道者的な部分を感じる。この問題意識自体は、かつてのダウンタウン松本とほぼ同質であり、面白い=最先端を追求する先駆者の孤独すら感じさせる。
ダウンタウン世代はその影響力の大きさから、長く続いてきた。ただ、そろそろ時代が変わっても良い頃であろう。その意味では、Aマッソには理想を高く持って欲しいと願う。
どうでもいいことだが、加納さんは顔は美人(ただ本人曰く”男ならザブングルの松尾レベル”)なのに、身体の姿勢がガニマタで関西のオッサン風なところも、女性性を排除したナニワの漫才師と言う一貫した主義主張が見られて、好感を持てるのである。
早速DVD「ネタやらかし」を購入。しかし、買った後にDVDプレイヤーが壊れていることに気づいたので、注文中である。感想は別に書きたい。