【書評】宮島未奈「成瀬は信じた道をいく」ーぶれない強固な軸を持った主人公成瀬が突き進む

先日(1/24)発売された宮島未奈「成瀬は信じた道をいく」を読んだ。

前作「成瀬は天下を取りにいく」同様、クールな主人公成瀬あかりと、その周囲の人々の日常が滋賀県大津を舞台に繰り広げられる青春小説である。

前作で中学生〜高校生だった成瀬は、本作で大学受験を経て大学生となる。チャレンジ精神は相変わらずで、自分の理想に向かって観光大使から平和堂フレンドマートでのアルバイトまでパフォーマンスの幅を広げている(本作最終編では更にレベルアップする)。

成瀬がもつ強固な軸は今回も全くぶれず、多少の動揺をみせるシーンがあっても、基本的には自分じしんで解決していく(他者や外部環境に依存しないようにもみえる)姿は、どこまでもクールで美しい。自分の人生を自分でクリエイトする意思を強く感じる。読者それぞれが羨望も交えてイマジネーションを膨らませることのできる人物像である。

あまりに孤独に強すぎるので、成瀬自身は今後他者を必要としないのか?という不安すら覚える。成瀬フォロワーは多いが、いまのところ成瀬サイドから求めているのは漫才コンビ「ゼゼカラ」の相方、島崎みゆきだけのようだ。そのあたりの展開は今後描かれていくのだろうか。

今回の作品中で、個人的には、独特のぶっきらぼうな口調が特徴の成瀬が丁寧語でも喋れるシーン(p.140)と、電車内で「ファインマン物理学」を読んでいるシーン(p.131)がグっときた。

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【書評】宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」ー滋賀県を舞台にしたクールな青春小説

24年1月に続編が出たばかりの、宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」を読んだ。ちょうど滋賀県への出張が立て込んでいた23年夏頃に、琵琶湖線の車内で読了したのを思い出す。

ミシガンクルーズ、平和堂など最近滋賀県に足を踏み入れた私でも理解できるローカルな内容が多く、主人公成瀬あかりのクールなキャラ造形と合わせ、楽しい読書体験となった。

残念ながら本書の導入で使われているエピソードである西武大津店の記憶は私にはない。まだ数年くらいしか滋賀県、特に大津〜守山の付近をうろちょろした上での浅い感想だが、このあたりは山も少なくほぼフラットな平地で移動は容易、長浜や米原が大雪になってもこの付近は大して降らないという気候にも恵まれている。また文化的には京都大阪の文化圏が近く、情報格差もない。メロンや米など地元の作物も豊富に採れる。琵琶湖もあるので何があっても水には困らない(これはまあ、アレだけど)。

なので、この付近は住民にとって、ものすごく心理的安全性の高い土地なのだと感じている(個人の感想です)。

その結果として、あまりハングリー精神みたいなものはなく、近江商人の土地柄といいつつもそれほど「がめつく」もなく(三方よしでいうとあまり自分=売り手よしを考えてない)、良い意味ではマイペースな人が多いような気がしている(個人の感想です)。

そんな心理的安全性の高い土地で、更にマイペース(そして優秀)な高校生・成瀬を軸に進む連作である。

そして先ほどハングリー精神が希薄と示したが、成瀬自身はその次元とは異なる意味での「向上心」があるように描かれる。他者や外部環境の決めた目標ではなく、自分の中にある「理想」に向かって真っ直ぐに進むという、素直な向上心が描かれるのである。そこで周囲は時に巻き込まれたり、振り回されて困惑したりするのが物語としての面白さであるが、それでも成瀬には一本のぶれない軸があるため、この青春小説には爽やかさが常に横溢しており、心地よい物語空間になっている。

大津にあるOh!Meテラス(これもなかなかの駄洒落だが)内のツタヤのPOP。ここのブックカフェもなかなか良い空間である。おまけに平日はかなり人が少なくて「大丈夫かな?」と思うくらい快適なフードコートもある。

大津付近の琵琶湖湖畔を散歩してみた(23年夏)。

作中にもあったミシガンクルーズ船である。まだ乗ったことはない。

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2024年、激動の年がまた明ける

2024年も明けてしまった。業務のモードが変わってはや2年以上が過ぎた。

要求されるハードルは上がりヒリヒリとした日常は続く。さらに寄る年波、取れない疲労、増える酒量で、なんとも苦しい状況である。それに加えて、今後のキャリアプラン(要するにサラリーマンとしてのセカンドキャリアをどうどうするか問題)の悩みや高齢化する家族の問題など、悩みは尽きない。

非常に悩むところが多いのだ。サラリーマン初期も確かに悩みが多かった。だが「まだ人生長い」みたいな余裕はあったのである。要するに悩みの種類が少なかったというべきか。それはそれも苦しい状況だが、この段階での悩みのバイキング状態はこれもなかなかの苦しさである。

なんとも締まらない状況であるが、初詣のおみくじは「大吉」であった。今年は希望のある一年にしたいなぁと。

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