【書評】施川ユウキ「バーナード嬢曰く。」7巻–図書委員・長谷川さんの感情発露エピソード多めの巻

施川ユウキ「バーナード嬢曰く。」7巻を読んだ。帯にあるように12周年を迎えた模様。すごい。

いつもの4人メンバーの本をめぐる日常であるが、今回は図書委員の長谷川さんのリアクションが結構多いような気がしている。ホームズマニアの控えめな眼鏡っ子で、男性キャラの遠藤を慕っている。

あまり目立たたないキャラ、かつ、舞台回し兼ツッコミ系の役割なので、感情を顕にすることが少ないような気がしていた。

今回は結構、照れてみたり怒ってみたりと感情を発露するシーンが多いようにみえる。

図書委員というのは、成長期のほとばしるエネルギーがあり余って仕方ない高校生が部活に汗を流す放課後に、校舎高階にあるエアコンの効いた図書室の窓から体育会系のエネルギー消費する様子を眺めつつ、同じく自分も食欲だけはあるので内蔵したエネルギーを抱えつつ<本>に向き合い、精神エネルギーを消耗するという立場である(そうなのか?)。

ここにも青春はあるのだが、やはりちょっと汗とか肉体のぶつかり合いはない。

でもお腹は減る。

文化系高校生、かつ、吹奏楽部みたいな情熱もない読書好きというのは、そんな屈折しやすくバランスの悪い青春なのだが、本書ではこの空間を見事に成立させている。同様に窓からサッカー部を眺めていた自分の思い出が過去から照り返してきて、なんとも読後感が甘酸っぱくなるのであった。

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【書評】谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』24巻–小宮山さんの”王者の変態ぶり”が冴える

谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』24巻を読んだ。

今回は文化祭の前日から当日を迎えるまでのまさに青春ど真ん中の期間が収録されている。

文化祭は準備期間が一番楽しい。開催するまでは時間が濃密だが、実際に当日を迎えてみると、意外に大したことはない。終了までのカウントダウンが刻々と進むだけの日々で、思ったより充実感はないのである。

我々の時代でもあった定番の段ボール集めのエピソードもあり、まさに青春。それに加え現代的なスーパー銭湯での直前合宿(といっても絵文字以外何もしていない)まである。

そんなもこっち監督の映画の出来栄えはまあ、日常の変態性に更に変態性を加えた感じでありなかなか面白い。

今回のハイライトは、変態の帝王である小宮山さん含めた変人オールスターが集結するシーン。最後にはやはり真打である小宮山さんがゾクゾクする発言で、主導権を握り返した上で、きちんと(?)締めるという王者の貫禄ぶり。

3年の秋になり時の流れが微妙に緩やかになってきた気もするが、いよいよ卒業に向けてこの作品世界がどうなるのか少し注目している。

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【書評】ラズウェル細木『酒のほそ道』54巻 今回はウンチク課長の縁談まとめムーブが不発に終わる

「酒のほそ道」54巻を購入。この巻では、オヤジ読者を謎の乱気流に巻き込み混乱させてきた例の主人公・岩間の恋愛エピソードは抑えめであった。

今回は前巻で松島さんに好意を抱いた若手の小篠くんの思慕が軽く出るシーンと、定番であるウンチク課長+松島さん+岩間のカウンターでの飲み会が描かれる。

毎回恒例の課長による、”ありとあらゆる方面・話題から強引に縁談まとめ方向に牽強付会するパターン”が発動かと思いきや、まさかの若い頃の自分の遠距離恋愛エピソードに酔ってしまい不発に終わる(しかも、岩間は拍子抜けする;期待してるのか?)というシーンが中々味わい深い。

コロナのない世界ではあるが、サンマの不漁は描かれるという酒飲みファンタジーの行方はまだ確定していないのである。

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【書評】ラズウェル細木『酒のほそ道』53巻ーついに四角関係に突入してしまった酔っ払いラブコメ

 オヤジ版「星の瞳のシルエット」と評判のこのマンガであるが、最新巻53巻では、結構ラブコメエピソードが多い。最近加わった後輩・小篠誉くんが松島さんへの好意を明確にし、その事実はなぜかヒロイン「かすみちゃん」だけが察知してヤキモキするという展開になっている。

 小篠くんの松島さんへの好意を示すコマ。目がハートだけでなく、さらに複雑なマークになっている。これは既にアッチの方面にいってないのか?大丈夫か?と思わせる斬新な表現である。

 さらには定番の、課長+岩間+松島さんの会食エピソードもある。当然のことながら、食の蘊蓄を語りながら、そこに絡める形でお得意のカットイン。

 それに対して、瞳描かれ状態の松島さんのこの発言!

 ただこの真意は、締めのうどんを「待っていた」という表現にも解釈でき、結果的に煙に巻かれた状態になっている。

 以前、この主に居酒屋を舞台にした純粋少女マンガ風恋愛模様は、まだ結論も出ぬまま継続しそうである。今回は、24話中5話がこうした恋愛模様を描く高確率状態である。うーん、このサブエピソードはどうなるのであろうか(結構気になる)。

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【書評】谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』23巻–真子さんの百合要素が発動する

 【書評】谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』23巻を読んだ。

 3年の文化祭準備がまだ続いている。既に20巻付近から続いているが、もこっちを中心とした心地良い(?)ワールドの”終わってほしくない準備期間”という感じで、面白い。

 当初もこっちが一人で持っていた”ぼっち”要素は、孤高の陰キャ的な部分は田村さんに、もう少しスクールカースト的な泥臭い部分は、キバ子とサチの関係へ、変態部分は小宮山さんに、オタクのテクニカルな要素は二木さんへとそれぞれ分化させることで、より深みが増したように思える。

 映画撮影では孤高キャラの後継者である田村さんの、ある特定な部分に拘りを見せる”その筋的な人”感がよく出ている。

 ただ、今回面白かったのは、田村さんの”お世話係”(というか裏回し?)である真子さんの百合要素である。

 かつて勘違いにより”女子トイレ個室監禁事件”を起こしたが、あれは誤解によるもので実際のキャラではなかったはずなのだが、結果的に本物感が出てきている。

 第11巻の女子トイレへ押し入ってきて詰め寄るシーン。この時は修学旅行から重ねたトラブルに起因する思い込みによるものでヘテロっぽい雰囲気だったけど・・・

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【書評】ラズウェル細木『酒のほそ道』52巻 まさに全盛期の「りぼん」を彷彿させる”中年少女マンガ”に新たなキャラ投入!

 ラズウェル細木『酒のほそ道』52巻を読んだ。

 今回は「麗ちゃん」も登場して懐かしい。それはそれとして、やはり2話分だけ、例の中年を巡る謎の恋愛事情、しかもプラトニックという、まさに全盛期の「りぼん」を彷彿させる少女マンガ展開が、居酒屋でウンチクと共に繰り広げられている。

 そして今回は、松島さんをめぐり、若手男子を投入してきた。小篠誉くんである。完全に岩間フォロワーであり、酒のウンチクを無条件に尊敬するタイプの善人キャラである。その彼が、完全に松島さんにイっちゃってるのである。

 現状の構図としては、小篠くん(new)→松島さん→?岩間ーかすみちゃん、という構図になる。図式で書けば簡単な話で、要するに中年版「星の瞳のシルエット」ということか。しかし、居酒屋の煙の中でピュアな恋愛はなかなかオッサン世代にはきつい。老眼も進んでるし。

 2025年問題も控え、今後の日本は社会課題が山積であるし、個人レベルでも加齢により成人病や介護の問題も気になる。あまりこの問題を引っ張ることなく早期決着しないと、読者層もさすがに心臓への負担が大きくなるのではないか?(いや、ないか)。

 

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【書評】谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』22巻–文化祭の準備期間という最も楽しい時間で青春感が高まる

 谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』22巻を読んだ。今回は文化祭がテーマで、本番ではなく、まさにその準備過程、一番楽しい時期である。

 黒木さんが監督をやり映画を撮影するという、まさにここ最近の求心力がモロに出ている状況である。そして各自の個性も際立ち、今回のエピソードは傑作揃いである。

 結局こうした「設定」に対して、多彩なキャラたちが受け入れ、目標を共有して進んでいく訳であり非常に「青春」である。まあ、とはいえ彼女たちもこのマンガのキャラなので、そういう意味ではその部分は従順なのはあたり前なのだが。

 うっちーの乱入シーン。オーディションで即落とされるというオチ(結局出そうだが)付きである。

 相変わらずの小宮山さんの変態性。

 今回意味深なのは、将来イメージで「シェアハウス」という概念が提示されたことである。これは私の邪推では、作者による読者に対する「今後の展開のリサーチ」のような気がする。確かにこのテーマとしては「美しい」し、時間進行型のこの物語としても長期化可能である。どうなるのであろうか。

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【書評】ラズウェル細木『酒のほそ道』51巻–”KIRA KIRA”と輝く松島さんの瞳・・・・

【書評】ラズウェル細木『酒のほそ道』51巻を読んだ。近年のラブコメ+島耕作という”迷走”状態(個人の感想です)で、戸惑うばかりであったが、今回はそちらは少なめ。通常運転に戻ってきた感じがある。

今回の解説は、山形つながりで「ますむら ひろし」先生。

 ただそこでも相変わらず、日本酒の仕込みの伏流水のように確実に底流に流れている恋愛ストーリーライン。

 飲み歩きしか興味のない中年男性のモテる世界なんて現実に存在する訳ないのだが、この世界には「ある」。

”KIRA “"KIRA"って・・・・

 松島さんが、主人公岩間の俳句趣味に対して少年マンガのヒロインよろしく(注:少女マンガのヒロインではない)、キラキラ感でときめくシーン。

 ・・・・うーんファンタジーですな(苦笑&現実にと立ち戻って羨望)。

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【書評】谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』21巻–リア充世界線以外のアフターコロナにおける”ぼっち”に思いを馳せる

 ようやくだが谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』21巻を読んだ。

 前回が10周年の記念巻だったこともあり見所満載であったが、今回は3年生の秋の文化祭からクリスマスまでのエピソードである。カラオケボックスでのクリスマスエピソードは、こうした風景が最近ご無沙汰だったことを改めて思い起こさせる。

  相変わらずのリア充路線であり、もはや一匹狼ではなく、群れの中心になってしまっている。主人公もこっちが、むしろメンバー内の辺境感たっぷりなマージナルなキャラ(うっちー、ゆりちゃん、小宮山さん)の方へのツッコミ役になってしまっている。

 そんなこともあり、もこっち自身も「キャラ薄」を自覚し始めている模様。

 うーんこの調子で良いのだろうか。とはいえ、翻って我々のリアルな世界では、新型コロナの環境下で2年間くらいは”こうした学生生活が存在しなかった”のも事実。こうした密な世界空間に訴求される部分もあるのかもしれない(といいつつ、二郎系ラーメンへ行ったエピソードではカウンターに仕切りはあったが)。

 コロナによるステイホーム&リモート環境により、”ぼっち”にとっては実は最も適正のある生活環境になっていたはずだ。しかし、作品世界にそれを導入しても、という葛藤もありそうである。そうした中でこの作品は「コロナなき世界」に進んでいくようだが、もう一つの世界線である”アフターコロナとぼっち”の世界も見たかったような気もする。

前回記事:【書評】谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』20巻–真の”ぼっち”であるキバ子がメインの、10周年で原点回帰した傑作巻!

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【書評】施川ユウキ「バーナード嬢曰く。」6巻–神林さんの感情発露が多発の一冊

 施川ユウキ「バーナード嬢曰く。」6巻を読んだ。

 場所は図書室やカフェが中心、登場人物は4名。このシチュエーションながら、読書あるあるを盛り込みながら、10周年を迎えた模様。

 6巻では、マニアとしては王道キャラの「神林さん(表紙の人)」が、結構感情を露にする。照れてみたり、泣いてみたりと。

 我が道を行くマイペース+クールかと思いきや、周囲の影響も受けてきたのか、感情の交流や自分感情が外部に流出する表現が多くなってきた。

 読書という趣味は、基本孤独作業なので、その結果を他者と共有できる環境は常に憧れる。むしろ心の片隅で「そうしたい」と思ってはいる。

 しかし同時に、そうした快適な環境というのは現実では「ありそうで、なさそう」、おそらく「ない」のである。まさにフィクションでしか成立しない世界なのである。

 次第に、この世界自体が、”読書好きが夢見るユートピア”のような雰囲気を強くしてきたようで、この先の行方がだんだん気になってきた。

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