連城三紀彦「白光」(光文社文庫)を読んだ。
連城作品の特徴である、人間心理を重層的に捉えて一つの主張が次の段階では異なる様相を示すような展開が続き、ラストの驚天動地の展開に至る傑作である。
ただ、物語自体は非常に暗い内容である。戦争体験や人々の憎悪、裏切りなどの負の要素が渦巻く。こうした不幸や嫉妬など、人間の業としか思えない感情による心理劇がひたすら続くという展開なのであるが、ラストに至るまでにそれを覆すスペクタクルな展開が待っている。
その謎を紡ぐ登場人物もこうした複雑な構成であれば単純化したいところだが、そんなことはなく、前記事で紹介した作品「青き犠牲」と比較しても倍以上の人数が登場し、その一人一人の心理のエゴと犠牲の両面を論理的に組合せていく構成となっている。
結末に至るまでには読者は何度も論理の転回を経験し、ラストまでこの強い「白光」を浴び、幻惑させ続けられるのである。
こうした極めて複雑な論理の束を破綻させることなく、読者をラストまで連れていく著者の剛腕に唸らされるばかりである。