先日読んだ、稲田将人「経営参謀」(日経ビジネス文庫)は、アパレル市場を舞台として経営戦略をテーマにした小説であるが、そこにおいて製品戦略のためには「マーケティング」が主な手法となることが描かれる。
アパレルすなわちB2C市場なので、消費者の行動をヒアリングや面談などで聴取し、巧みな質問と分析によって明らかにしていく。これを感心して読んでいた。いわゆる「マーケットイン」の考え方であると理解している。
ただ、最近のB2BあるいはB2Pと呼ばれているビジネスモデルではどうなのか?という疑問が湧いた。
最終的には消費者(コンシューマのC)にたどり着くにせよ、その前段にある材料メーカや製造装置メーカなどサプライチェーン上流側にあるメーカにとって、同様にマーケティングをしようとした場合、非常に困難を感じる実感がある。
特に製造装置メーカなどは、個別受注型モデルを選択することが多く、その結果として中期計画などが個々の顧客の”点”だけの繋がりになってしまう。逐次、中期計画の検証・修正をしようとしても毎年看板を掛け替えるだけになり、要するに行き当たりばったりの計画になってしまうことが多いように思える。
身も蓋もない言い方をしてしまうと、”御用聞き”にとっては、中期計画も戦略も必要ないし、存在しないのである。
だが、それでも会社の規模によっては経営企画部門があり、彼らは毎年一生懸命、中期計画や戦略を作ることになる。しかしこれは上記のように毎年無意味な徒労に終わることが多いようだ。
確かに戦略自体も1次仮説であり、これを小さい範囲でPDCAを回して精度を上げれば良い。「経営参謀」に正しく書かれているように、それは理解している。
だが、サプライチェーンが多重的に重なり、最終的な「ニーズ」や「進むべき方向」のコアがボカされた結果、目の前には”伝言ゲーム”で作られた、謎に広いニーズだけがある(以下の図式)。
こんなものを前にして進むべき方向を作れ、と言われても厳しいのも事実なのである
芯を食った「進むべき方向」など出てくるわけがないのである。
ちなみに半導体業界などは巨大市場であるが故に、そんなことはなく、デバイスメーカと装置メーカが業界団体を作り、ロードマップそして規格を作ってきた。こうしたイニシアチブがある業界はむしろ例外である。
こんな状況の中で、妥協的に考えて、経営企画的に行動すると、どうなるか。
いわゆる「プロダクトアウト」になってしまうのである。
強い自社技術を特定して、それを生かす市場の方を探しにいくという手法である。
だが、これは経験上、上手く行かないことが多い。確かに上記のような目の前にある「市場」が広く、薄く、ぼんやりしている場合、唯一ロジカルに解を出したように見せられる方式である。経営層にも一応「納得」を感じさせられる、経営企画部門のテクニックとも言える。実際上手くいかなかった場合、技術力が足りなかったと技術サイドに責任転嫁できる狡い手法でもあるのだ。
だが、B2Bにおいて「プロダクトアウト」方式は、それ自体は否定しないが、まぐれのホームラン狙いのような感じであることも確かである。そんなロジカルに解が出れば苦労しないのだ。
実際に、その業界で勝っている(勝った)企業は、実は「プロダクトアウト」ではなく、「マーケットイン」で勝利しているように思う。やはりB2Cと同様に誰も見つけていない”真空市場”があり、”市場を作り出した”はずなのだ。そして、それは今この場でも「ある」はずなのである。
しかし、多重に連鎖しているサプライチェーンが、B2Cでは可能だった市場分析の手法ができない、あるいは、そもそもシステムに存在する時定数の大きさ(遅れ要素)が、単純なマーケティング手法を適用できないという課題があるのである。
ではそのB2B、あるいは、多層的B2B(B2(B ^X )B2C)において、市場の「潜在ニーズ」を特定するにはどうしたら良いのか。
その答えはまだ私にはない。今もうんうん唸っているのである。