先日行きつけの古本屋にあった小松左京「青い宇宙の冒険」(角川文庫)を手に取った。懐かしい。高校生くらいで読んだ記憶がある。早速再読。 なかなかの時代めいた表紙とデザイン。1976年発行の初版であった。イラストは長尾み …
【書評】菊池秀行「魔界都市〈新宿〉」–魔物が渦巻く新宿を舞台としたSFホラー活劇の名作
先日古本屋で発見した、菊地秀行のデビュー作、1982年発行の「魔界都市〈新宿〉」(朝日ソノラマ)を見つけた。 表紙がなかなかの時代を感じさせるテイストである。 どことなく剣を構えた主人公や立ち向かうヒロインの姿は「 …
【書評】藤枝静男「悲しいだけ/欣求浄土」私小説のリアリズムの極限に生まれた、SFのようなファンタジーのようなイマジネーションのある豊穣な物語空間
藤枝静男「悲しいだけ/欣求浄土」(講談社文芸文庫)を読んだ。 いわゆる私小説であるが、藤枝静男は、リアリズム的に自分の心理を中心に描き想像力の対極にあると思われた私小説がその極限まで突き抜けると、SFあるいはファンタ …
【書評】村松友視「トニー谷、ざんす」–まるで”ひとりエレパレ”のような戦後に現れた大スターの「謎」
村松友視「トニー谷、ざんす」(毎日新聞社)を読んだ。 戦後すぐに現れた芸人であり、”大スター”トニー谷についてのエッセイである。 永六輔やトニーの妻など、関係者の証言も多く載せられている。 トニー谷という存在は、 …
【書評】連城三紀彦「離婚しない女」–同心円状の外と内がひっくりかえるような感覚の恋愛ミステリ
連城三紀彦「離婚しない女」(文春文庫)を読んだ。中編の表題作と、「写し絵の女」および「植民地の女」の短編2編で構成されている。 名作「恋文」や本格ミステリ「人間動物園」で描かれた、心理劇+どんでん返しを味わうことがで …
【書評】谷川ニコ「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」19巻–ヤンキーが夏休みに免許を取って”煽り運転”
谷川ニコ「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」19巻を読んだ。 季節は3年生の夏休みである。 ここから卒業まで時間軸がまだストレッチしそうな予感もありつつ、今巻ではコミケやヤンキー吉田さんの免許取得+ドライ …
【書評】秦郁彦「昭和天皇五つの決断」–天皇制のもつ二重性とその対立について
秦郁彦「昭和天皇五つの決断」(文春文庫)を読んだ。 大日本帝国憲法と日本国憲法、皇国史観と民主主義、2つの大きな時代とその転換点を、その中心として活動した昭和天皇の「決断」についての論考である。 大日本帝国憲法では …
【書評】黒島伝治「渦巻ける烏の群 他三編」プロレタリア文学の枠内に収まらない物語性
黒島伝治「渦巻ける烏の群 他三編」(岩波文庫)を読んだ。表題作「渦巻ける烏の群」は、作者じしんが参加した日本軍の「シベリア出兵」を題材とした、いわゆる”反戦文学”として名高い名作として知られている。 ここに納められた …
【書評】門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」福島原発事故のフロントライン、中操(中央制御室)のオペレータたちの姿を描く
門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」(PHP)を読んだ。(文中敬称略) 福島第一原発事故において、事故発生から現在に至るまで次第に情報が出てきたものの、現場の最前線の声というものはあまり明らか …
【書評】河野啓「デス・ゾーン 栗木史多のエベレスト劇場」–「自己実現」と「大衆からの承認」のサイクルの中で泳ぎ続けないと死んでしまう”マグロ”になった人間の悲劇
2020年の開高健ノンフィクション賞を受賞した河野啓「デス・ゾーン 栗木史多のエベレスト劇場」(集英社)を読んだ。(文中敬称略) ネット界隈で登山家ならぬ「下山家」と揶揄され、エベレストで最終的に命を落とした栗木史多 …