あれは1980年代前半から1990年代前半。
まだバブルが弾けていない、古き良き時代のことであったと記憶している。
多摩ニュータウン近郊に出現した「超大型古書店」の思い出について語ってみたい。
これはBOOKOFFのようないわゆる「新古書店」とは異なる。
既存の町の古本屋の倉庫を、そのまま深夜営業の大型店舗にしたようなカオス感というかアナーキー感が漂う非常に面白い店であったのである。
特徴としては、
・郊外にプレハブ倉庫のような超大型店舗(場合によっては2階建てもあり)
・深夜営業(おそらく大学生向け)
・本棚が異常に多い
・同じ本を多数置くことも許容
・大学の指定教科書の販売が多い(多摩ニュータウンの特徴)
・雑誌もバックナンバー含めとにかく多数置く
・今でこそ「あり」だが、立ち読み自由
といった形で、とにかく物量が異常に多かったのである。
おそらく多摩ニュータウンの立地(土地があり、大学生が多い)に適していた形態だったのであろう。
また、BOOKOFFのような、本にスーパーのようなシール値札をつけるようなことはせず、 古書店らしく裏に鉛筆で値段を記載していた(当時のこと。現在は不明)。
しかし、その後BOOKOFFなどの新古書店の台頭により、この店舗形態は駆逐され、それと同質化していった。
そして現在のBOOKOFF的な新古書店ビジネスの停滞とともに、いっしょに駆逐されようとしている。
代表的な店舗としては
・ブックセンターいとう
・ブックスーパーいとう(上記の”センター”と兄弟店舗らしく、のちに統合)
・博蝶堂
などがあった。
特に「ブックセンターいとう」の本店(東中野本店)は野猿街道沿いにあり、その2階建てで極めて巨大な店舗には度肝を抜かれ、圧倒された。まさに今でこそ当たり前の”せどり”の宝庫のような感じであったが、意外にも値付けは正確であったように記憶している。
周辺の中央大・明星大などの大学指定の教科書などが大量にリサイクルされるようで、結構理工学系の書籍もあり、理工系の学生にとっては助かった。
学生時代の私は50ccバイクに乗って、深夜の時間潰しもかねて良く寄っていた。いくら時 間があっても見尽くせない物量であり、心ときめいたのである。
この店は今も同じ場所に店を構えているが、BOOKOFFに近い形態になってしまっており、当時の面影はない。
博蝶堂も野猿街道沿いにあった店舗であり、既に閉店している。
形態はさらに”古本屋の倉庫”に近い形態になっており、高い天井まで届く本棚には黄ばんだ年季の入った古い本が大量に並んでいて、カオスに加えエキゾチックな雰囲気があった。誰が買うの?と思われるような本が、多くあったのだ。
ここで今や完全に忘れられている(?)城戸禮(きどれい)の三四郎シリーズ(春陽堂文庫)を1冊50円で大量に購入したが、その後の扱い(処分)に困ったのも良い思い出である。当時の私のつたない”せどり能力”では、これを掴むには時代が早すぎるのを感知できなかったのである。
河出書房の<現代の科学>シリーズも、大量にかつ安価(300円均一)で販売されていた。これは今でも入門書としての価値があり、助かっている。
2019年5月、町田にあった大型古書店「高原書店」の倒産、閉店がちょっとしたニュースとなった。
ここが今私の生活圏の中で、最後の”超大型古書店”であった。
予備校を改造した店舗で、4F建てにぎっしりと書籍があり、学術書、児童書、漫画、SFなどジャンルは多岐にわたり、セール本から高価本まで値付けも確かであった。
四国にあったという倉庫の100万冊とも言われる膨大な書籍の行方はどうなってしまうのだろうか。再び古本市場に流れて、我々の目に留まれば良いが。