連城三紀彦「離婚しない女」(文春文庫)を読んだ。中編の表題作と、「写し絵の女」および「植民地の女」の短編2編で構成されている。
名作「恋文」や本格ミステリ「人間動物園」で描かれた、心理劇+どんでん返しを味わうことができる佳品である。
連城三紀彦の小説は女性の心理の機微に説得力のある(納得感がある)ように感じてきたが、最近、これは読者である私=男性的な視点なのではないかとも思えてきている。個人的な感覚として、男性ファンは多いが女性ファンの声をあまり見かけないような気もする(私見です)。
それはさておき、今回の作品3編どれも、連城三紀彦の恋愛ミステリとしてのウマさが出ており、ラストに何らかの仕掛けがある。
それも物理的な”トリック”に心理的な要素を付加しており、いわば同心円状になった多重構造の構図となり重層的になっている。
名作「人間動物園」でもそうであったように、最後に、こうした物理的(フィジカルな)視点の転回と、心理的な視点の転回がある。これまで正しかった(と思われた)構図–それは物理的・心理的双方にある–が全く別の構図に転回される。
連城三紀彦の作品では、通常のミステリでは描かれにくい男女の心理的関係などを”深く”掘り下げており、これが付加されることで、読後感は通常のミステリとは違った独特なものとなっているように思える。