連城三紀彦「青き犠牲」(文春文庫)を読んだ。ギリシャ悲劇である「オイディプス王」をモチーフとしたミステリーである。
著者が得意とする、”内と外の構造の相対性”の発想も盛り込まれており、物語の構造がダイナミックに転換していき、息もつかせぬ展開である。
「オイディプス王」の持つ”父殺し”や”母との不適切な関係”などの要素が効果的に使われると同時に、それだけではない重層的な謎を盛り込み、またミステリとしてのトリックも十分に仕込まれている。
読了したのちに、少し冷静になって考えてみると、実はこの事件自体はリアリズム的には決して”ありえない”構造なのである。
しかし、このギリシャ悲劇の普遍的なモチーフを用いた著者の強力な語りによって読者自身も幻惑されてしまい、この現実離れした事件を”ありそう”と思わせるのはさすがとしか言いようがない。