年末に発売された、酒寄希望「酒寄さんのぼる塾日記」(ヨシモトブックス)を読んだ。4人組女性お笑いカルテットのリーダーかつブレーンである、育休中の「酒寄さん」が書いたエッセイである。
発売前からnoteやwebエッセイで、なんとも抑制の効いた文体で、仲間であるぼる塾メンバーの面白エピソードを書いており注目していた。
この酒寄さんが書く「田辺さん」のエピソードが非常に面白い。本当の田辺さんより面白いのではないかという感じであり、まさにプロデューサー視点である。
ここで描かれる田辺さんのエピソードは、ある意味異常に変わった人でありつつも、同時に人情味も溢れるという多面性のある性格として描かれている。
これはこれで読者にとっては、芸人をみつめる視線として、非常に元気づけられたり、ほっこりしたり、と良い印象を与えてくれるのであるが、そうはいっても人間としての田辺さん自身はきっとノーストレスではないはず、という点が少し気になる。
その点はプロの芸人としては見せたくない部分であろうが、本書では、これと併せてぼる塾4人の強固な関係性が描かれることにより、そちらの心配についてもある程度安心させられもするのである。
ちなみに本書で一番笑ったのは、相方とは親しく話している酒寄さんが、出産において自分の夫と会話する文体が、思いっきり他人行儀の「ですます」調であることであった(p.387)。田辺さんとはフランクな会話なのに・・・。酒寄さんと夫とのエピソードは本書では皆無。よって、この後の伏線回収もされていない。酒寄さん自身の変人性も垣間見えるような気もするが、解決はされていないのだ。
こうした複雑さも込みで、”癒される”不思議な読後感であった。