発酵という人間が見つけ出した現象は、保存性、風味や栄養成分のアップ、はたまた新たな物を生成するといった、まさにテクノロジーである。
自然には酵母菌が存在し、果実の糖(グルコース)をアルコールと炭酸ガスに変化させる反応が起こる。
要するに、自然に果実を放置しておくだけで、俗にいう「酒」になるのである。もちろん、それを更に品質を高めるための手法もあったが、そもそもこうした現象が自然に、かつ、容易に存在したところに、ある種の神秘というか奇跡のようなものを感じる。人間にとって非常にラッキーというべきか。
そうした人類の進歩における発酵現象を追体験するという観点から、葡萄を潰して、ビンの中で放置してみることにした。
スーパーで適当に葡萄を購入。たまたま目についた山梨産の「サニールージュ」とメキシコ産の種無しぶどうを購入。サニールージュも種無しぶどうだったので、種子を取り除く手間が省けた。
葡萄は洗わず、そのまま使用することとした(自己責任)。自然酵母は表皮についていることが多いと聞いたためである。
この葡萄を茎から外し、果実をボウルの中で掌を使ってワシワシ潰す。そしてアルコール消毒(焼酎である)した、広口プラスチックビン(1.5L)に投入。
100円ショップで購入したものであるが、このビンの口は、注ぎ口が取外しでき、かつ、注ぎ口もロックと軽く蓋を置くだけの状態にもできる(炭酸ガスの放出モード)ので、まさにこの用途に便利である。
入れた直後はこんな感じ。潰したばかりの果汁はまだ白っぽい。
このビンを夏場(8月)の台所に、ただ置いておくだけ。
室温は特に調整していないが平均して25℃はあったであろうか。
1日目は何も変化がなく心配していたが、2日目からはブクブクと泡が発生。発酵による炭酸ガスであろうか。かなり炭酸ガスの放出が活発であり、うっかり蓋をロックすると膨張して破裂の危険があるので、蓋は軽く抑えるだけにしておく。上の方に皮などの固体層が浮かび上がり、下方に果汁の液体層の二層に分離してきた。
果汁の色も皮から染み出してきた影響か、少し赤っぽくなってきている。
3日目にはこんな感じで、かなり活発に泡が出ており、蓋をロックするのが危険な感じである。皮などの固体層と果汁の液体層は分離している。これは「粕帽」と呼ばれるらしい。
上方で空気に露出している皮にカビがつきやすく、最終的には腐敗の原因になるらしいので、適度に果汁とひたすように、木のスプーンやビンを攪拌して混ぜ合わせる。
耳をすますとブクブクとした音が聞こえてきて、反応が進んでいることがわかる。
4日目には炭酸ガスの放出が止まってきた(ゼロではない)。
このあたりで再びビンの中身を全てボウルに取り出し、目の細かいステンレスのザルを使用して、果実部分を再度圧搾する。もちろん素手である。そして果汁部分だけを分離してビンに戻し、今度は冷蔵庫へ。このあたりである事情(後述)から、発酵のスピードを落とす必要があるのである。
そして5日目。いよいよ味見である。糖分はなくなり、甘味は極めて薄くなっているようだ。そのかわりに何やら気持ちの良い感じの液体に変化している。若干の炭酸が残り、スパークリングな感じである。特に腐敗臭的なものもなく、非常にフレッシュであった。やはり糖度が足りないのか、1%未満的な味わいであるが、それでも気分が良い液体である。
沈殿物である澱(おり)を除去した結果、最終的に500mL程度の「液体」ができた。これを冷蔵庫で熟成させつつ、チビチビいただくことにする。
ここまでの結果をまとめると、要するに、葡萄を潰して放置するだけで、自然酵母による反応により、別の飲料になってしまうのである。
特別な酵母を入れる、砂糖を追加するなどの、より”そっち寄りに”品質を高める方法はあるようだが、今回は、単純に葡萄を絞ったものを放置しただけで、別の飲料になってしまうということを実証してみたことになる(なんでこのような周りくどい言い方をするのかは、後述)。
ある意味、自然の力のみによる現象であり、これは太古の人類にとって重要な発見であったと思われる。テクノロジーへの第一歩というべきか。
ただ、そうした自然現象とは別に、日本では酒税法の問題がある。したがって、本記事では、あくまでアルコール度数1%未満になるように発酵を調整した結果であることは強調・追記しておく(これはこれで、どぶろく裁判などの事例もあるように議論の余地があるが、趣旨がずれるのでここではこれ以上述べないこととする)。