今年の元旦に発行された「酒のほそ道」56巻を読んだ。主人公岩間をめぐる、往年の少女マンガばりの恋愛模様は少なく、原点に基づいた酒+グルメウンチク路線の1冊である。

元々、このマンガは著者も承知の上で時間軸が(ほぼ)止まっている。つまりサザエさん的な時空間であり、この世界では、コロナもなく、時間もかなり緩やかな進み方だ。その一方でテクノロジーは進化し今回もかすみちゃんが不忍池でスマホで撮影するシーンがあり、現代としての設定もある。
新入社員登場や脇役の結婚はあり周囲の時間も少しは進んでいるようだが、ウンチク課長と岩間の関係はそのままで、初期からずっと保持されている。
ここでそろそろ問題となるのが「この課長の年齢は一体何歳なのだろうか?」ということである。
島耕作のようなサラリーマン世界を忠実に描くマンガがある一方、料理系マンガの場合、サラリーマンとしての「仕事」の部分は本来エピソードと関係ないからか、あるいはそもそも作者に興味がないのか、結構いい加減というかリアリティがないことが多い(要するにあまり詳しく描かない)。
よくあるのは、”打ち合わせが終わって、テーブルを挟んで、ではそういうことでよろしくー”みたいなシーン。これで一仕事終わった感のシンボル的表現にするのは良いが、さすがにこれは昭和の世界というか、擦られすぎ、というか。まあ料理系マンガはそこからがメインなのだが、もうちょっと丁寧さがあっても良いのではなかろうか。
「酒のほそ道」でも同様にあまり仕事の描写に力は入っていない。ただ、なんとなく雰囲気は「昭和」の会社だ。以前も書いたが、課長と飲む場合、毎回課長が全員分の費用を全部奢る習慣なんて世界はそもそもないだろう。あるとしたら、むしろ吉本芸人だけではないか。
そんな中で、自分が支払いをするからなのか、この課長は、思いっきりの男女を結びつけのトークをしてみたり、食ウンチクを気持ちよく語ったりと、典型的な昭和の上司としてマウントを取っている。まあ、それはそれで問題ないのだが、段々と実際の時間が経過してくると、少々不自然さが出てくる。
要するに、”いつまで課長止まりなんだろう?””そもそも何歳なんだろう?”という問題である。課長というのはそんなに会社組織で偉くはない。ある意味最初になる管理職のようなもので、ある種の通過点だ。「万年課長」というように、いつまでも課長止まりでずっといる、という状態には、少々”使えない”要素も入ってくる。また、この課長、”鯨が給食で出たことがある”、さらには”人類初の月面着陸をテレビで目撃した世代”なのである。

となると、現時点において課長の年代は、アポロ11号が月面初着陸した1969年に少年時代を送った世代と推定できる。つまり、生まれは1960年付近か。そうなると現時点の年齢は、2025年段階で65歳となってしまう。企業によっては55歳で役職定年になり、60歳からは再雇用となる。確かに優秀な人員は幹部や役員として残るが、この課長は地位も課長のままなのである。繰り返しになるが、正直、課長という職はそんなに偉くもないわけで。
ファンタジーの世界に無粋な現実社会の知見を持ち込みたくはないものの、長期連載と作品世界の時間の流れによって、少々このキャラの造形に、戸惑いを隠せなくなってきている。とはいえ、酒マンガでありながら恋愛要素にファンタジーとSF的要素が加わったと思えばそれはそれで面白い、といえるのかもしれない。
酒の席で野暮で無粋なツッコミをしているようで気がひけるが、少々気になるのである。