最近新版が出版された、ヴァン・ヴォークト「武器製造業者」(創元推理文庫)の旧版を読んだ。
原著の出版は1947年ということで、第二次世界大戦終了後2年しか経っていない。既に70年経過しているSF古典であるが、これがなんとも面白くて一気読みである。
SFとしての科学的ガジェット(様々な武器や恒星間航行エンジン)は、当然それ自体若干の陳腐化(といっても70年前なのだから当たり前)が進んでいたり、ご都合主義の部分も目につくのだが、それを無視してお釣りが来るくらい”現代性”があるのである。
一つは、主人公に「不死」という設定を与え、その使命と役割に歴史的・政治的なミステリー要素を与えたこと。これは「ポーの一族」のような、”不死という本質的に孤独な宿命”が持つ感傷を生み出す。またそれは小説上のツールとして様々な味付けにも使え、この小説構造に重層的なイメージを与えている(はるか昔に自分が仕掛けた道具によって危機を回避するシーンなど)。
更には、この物語のラストにピークを迎える、人類が持つ科学的機械論では還元できない特殊な”思い”を、読者は客観的な視点で体験できることになる。まさにこれらはSFの持つ文学性であろう。
もう一つの”現代性”は、生存戦略ゲームの側面を指摘しておきたい。2つの相反する組織どちらからも命を狙われる(最後にはもう1つの”組織”からも狙われる)主人公は、様々な論理的・戦略的思考によって、その危機を回避する。まるで「カイジ」などで描かれる戦略的ゲームを見ているかのようである。
そもそもこの小説の舞台設定、自衛のための武器というアイディアによる2つの独立した組織による均衡という姿自身が、近代文明の持続的成長に対する一つの戦略的回答とも言えるのである。
こうした意味でSF文学としての「文明批評」、ファンタジー文学としての「不死」、そこから付随する「政治」および「歴史」。更にはミステリー要素があり、なんと実は恋愛要素まであるという、恐ろしく凝縮度の高いSF古典なのである。
古書店で購入した1967年初版、1980年16版の創元推理文庫。装丁はなんと司修である。司修は1936年生まれなので31歳の作品であろうか。