ロバート・シェクリー「ロボット文明」(創元推理文庫)を読んだ。原著は1960年出版で、文庫の初版は1965年。この本自体は1970年の第10版である。そして装丁は「武器製造業者」と同様、司修である。
読了後に、どうも表題がしっくりこない。
”ロボット文明”というものがメインテーマではないのである。原題を読むと”THE STATUS CIVILIZATION”とある。要するにこの小説の舞台コンセプトの一つである”階級の文明”、あるいは”地位の文明”と素直に訳せば良いようにも思えるが、当時の事情だと特に”階級”という言葉がマルクス主義のそれを連想させ、そうした配慮があったのであろうか。
短編集「人間の手がまだ触れない」とは異なり、長編小説である。
未来の世界における囚人の星”オメガ”に、殺人の罪により記憶を強制的に消去された主人公が地球から追放される。”オメガ”は囚人による独立社会が構成されており、そこでは地球での価値からの転倒が起こっている。すなわち、地球における「善」に対していわゆる「悪徳」が社会の価値として認められているという悪夢のような世界なのである。
そこで主人公は生き延びるために、様々な策を講じながら、最終的に地球を目指す。しかし、その地球はまた”オメガ”と表裏対称的な世界となっていた。
アイディア自体はシンプルで、短編と同様に比較的単純な構造をしている。ストーリーも主人公の殺人の記憶を巡ってのミステリ一要素はあるものの、一本線である。しかし、そこには”オメガ”と”地球”とを相互に対概念としたある種の対称性、美的感覚を感じさせる。
物語の中盤で、主人公の運命を”幻視者”の女は予言する。
「あなたは死んでおいででした。それでいて、死んではいないのです。あなたがご自分で、ご自分の死骸をさがしています。死骸は粉々になって、そのひとつひとつが、きらきらとかがやいていました。その死骸があなたなのです」(p.120)
引用終わり
これだけでは何を意味するか全くわからない。謎めいた予言である。
そしてまさにこの通りの運命をたどり、最後にはピースがピタリとハマるが、そこに至る仕掛けはさすがシェクリーとしか言いようがない。
また、この小説はいわゆるフリークスが、その意味通りに重要な役割で出てくるので、おそらく再販はされないであろう。なかなか不思議な雰囲気の小説である。その一方で、ヒロシマ、ナガサキの核爆弾投下後の、核兵器を所有した冷戦構造に対する歴史問題意識、すなわちヒロシマ、ナガサキ後の史観としての意味づけもベースになっていることも指摘しておきたい。