前にも書いたが、牛乳が苦手である。思春期の頃は背が伸びると信じてガブ飲みしていたが、良くお腹を壊していた(背も大して伸びなかった)。
最近になって乳糖分解酵素の欠乏(乳糖不耐症→wikipediaへのリンク)が原因であることが結構知られてきており、自分だけが特別なのかと思っていたがそうではないと知って安心した。
中尾佐助『料理の起源』(NHKブックス)の「乳製品の加工」の章においても、遊牧民であり乳を多く利用するモンゴル人が、大人が牛乳を飲まず(子供には飲ませる)、もっぱら乳加工品として摂取している実態から、上記の症状に言及している。
大人になるにつれ、人間は乳糖を分解できなくなる(そうでない人もいる)。牛乳の成分のうち、乳糖はその固形成分の1/3を占める。乳糖のような多糖類を吸収するためには単糖類に分解するための酵素が必要で、これは赤ちゃんの頃には持っているが、少年時代を過ぎると消失してしまうという。
そうした人間の性質、さらに加えて保存の課題から、人間は新鮮乳に対して経験から様々な処理工程を試行錯誤の中から発見し、加工品としての乳製品にしてきた。
こうした乳製品を加工系列として図示化したものを、中尾の著書では梅棹忠夫の研究成果として紹介している。
西欧の乳製品加工系列は、以下のようになり、まさに現代で流通しているものと等しい。
1.牛乳をクリームとスキムミルクに分離する(例えば放置していても良い)
1.1 クリームはバターやクリームチーズの原料となる
1.2 スキムミルクはカッテージチーズやスキムミルクパウダーの原料になる
2.牛乳を酵素(レンネット)によって凝集させチーズの原料にする(発酵も関与)
西欧以外のアジア、アフリカなどでの加工系列は更に異なっており、まだ完全に体系化できてはいないようだ。しかし、モンゴルやブータンなどの調査結果では、初めて聞くような乳製品があり、興味をそそられる。
中尾の著書で、実際に食べた感想として、賞賛しているものをあげてみる。
・ブータンの「フィルー」-柔らかいチーズ状だが弾力性があって、引きちぎると餅のように伸びる。「味は酸味がなく、非常に上等な乳製品である」「上等なフランス料理で食後に食べる多種類のチーズの中にも、これに及ぶものはないだろう」(中尾.p.164)
・モンゴルの乳酒を更に蒸留した「ホルチ」 -「非常に強い酒で、コニャックのように強い香り」「・・・このモンゴルの乳酒の一つであるホルチだけは、文明国のホテルやバーへ持ち出しても、高い評価を受けること確実」(中尾,p,182)
どちらも調べてもなかなか手に入りそうな感じではないが、一度は味わってみたい。
また、以前の記事で言及した中国、日本での乳製品(蘇,酥)についても言及がある(中尾.p,194-195)。
蘇(酥)がどのようなものであったか、中尾自身も決定できていないが、可能性として
・モンゴルの「べとべとウルム」(生乳を静置させ脂肪分を煮詰めたもの)
・インドの「コヤ」(生乳を攪拌しながら煮立て水分量が30-40%くらいまで濃縮したもの。コンデンスミルク)
が類似例として挙げられ、中尾はウルムよりコヤに近かったのでは、と推定している。
これも蘇=コンデンスミルク説であり、wikipedia先生とは対立している。