吉本隆明(追想・画 ハルノ宵子)『開店休業』(プレジデント社)を読み返している。
80歳台に入り、肉体的にかなり弱ってきた吉本先生が、静かに老いを迎えていく中で、”食事”や”味”について語っている。
まさしく親鸞の還相回向を体現した、”比叡山からの帰り道”を見せてくれたと思っている。
吉本先生は30台で糖尿病で食事制限が必要となり、更に晩年では総入れ歯になっていた。そんな中でも、旺盛な食欲、食への興味を追求している。それらを、更に長女のハルノ先生が家庭人としての視点から、フォローをしている。
「肉フライ」「豚ロース鍋」「たい焼き」「塩せんべい」など懐かしさと、食欲をそそる内容である。
その中で、特に面白かったエピソードは、以下のハルノ先生による追想。
吉本先生は、前述の通り糖尿病で食事制限をする必要があったが、奥さんが完璧主義のため、味よりカロリー計算重視のメニューになった結果、ストレスが溜まったのか散歩中にこっそり外食をして1日の摂取許容カロリー分を1回で食べてしまう。ある日そのレシートを見つけられてしまい、
キャバクラのマッチが落ちているより恐ろしい結末となった。当然のごとながら母がブチ切れ、その後の一切の炊事を放棄し、以後二度と台所に立つことは無かった(p.47)
引用終わり
なかなか詰めが甘いが、人のことは言えない。
また、新しいものに関して許容範囲が広く、カップラーメンやグミキャンディーも好意的に書いている。グミの美味しさを語り、老人には最適だ、とし
モノは全て未来をもっている。食べ物だけが未来をもたないはずがない。(p.147)
引用終わり
と非常に柔軟に思考する。
吉本先生はハルノ先生に「グミを何種類か買って来てくれ」と頼み、食べ比べをする。
後日、私は四種類ほどの「グミ」の袋をはさみで切って片っ端から食べてみた。驚いたことに「グミ」には、まだ「未来」があった。かたい外皮とやわらかい外皮のものが存在するのである(p.148)
引用終わり
と、まさに理系オタクのような分析までしている。
そして、この本で私が試してみたのが、表題にもある「梅干し in 味の素 with 醤油」である。
吉本先生は「味の素」が大好きだった。
娘さんたち(ハルノ先生とよしもとばなな先生)は、「父の”命の粉”」と呼んでいたらしい。
梅干しに味の素を「真っ白の雪山のようになるまでかける」。
イラストもあり、こんな感じである。
早速やってみた。実家から送られて来た塩を吹いている酸っぱいやつに、たっぷりと味の素をかけてみる。
味の素の柱状結晶が光に反射して、なかなかである。このくらいでいいのだろうか。
醤油をかけると、ちょっと様相が変わってしまう。
梅干しをこそげ落としながら、酒のつまみでチビチビ食べると乙である。
ただ、味の素+醤油という組み合わせを口に入れると、毎回正月の磯辺もちを思い出す。そんなに似てない気もするが、不思議である。