前回記事の「結晶星団」と同じく実家の本棚から発掘してきた小松SF作品。角川文庫版で、1982年発行。
角川文庫版小松左京作品の装丁は、生頼範義(おおらいのりよし)によるものが多かった。特に「復活の日」の表紙は、すごく印象に残っている。バタ臭さと格調高さが入り混じったデコデコしいルネッサンス風装丁が、小松SFの雰囲気と非常にマッチしていた。
今回の「氷の下の暗い顔」は4編の作品からなっているが、「結晶星団」と異なり、それぞれが叙情性あふれる壮大なSFになっている。
「歩み去る」は、世界各地(宇宙も含む)を旅して”何か”を探す老いることのない不思議な若者たちの”人類としての成長”を、我々と同様置いてゆく世代の主人公を対比する形で描く。
「劇場」は、ある惑星に降り立った地球人が、その惑星に林立し、惑星の住人たちが熱狂する歴史的スペクタクル「劇場」の謎について探るもの。
「雨と、風と、夕映えの彼方へ」は、この作品群でもっとも叙情性と映像的イメージの高い作品である。雨、風、夕映えといった、いわば我々の持つ精神的故郷の「風景」が目まぐるしく変わってゆく不思議な環境において、人工受精によって生まれた「精神的故郷を持たない」主人公の思いを描く。
最後の表題作「氷の下の暗い顔」は、ファーストコンタクトもののハード SFでもあり、異世界の生物相を科学的知識をてんこ盛りで描き切った傑作。ビーバーのような外見の異星人、辺境の惑星に存在する巨大な人類の「顔」(自然物である)、長い記憶を継承し無形物と会話できる生物たち、それらの魅力的なキャラクターは、最終的にこの「惑星」そのものが謎として含まれてくる。惑星自体の運命、あるいは、最期という壮大なテーマであり、スペクタクル感満載なクライマックスも圧巻である(この点、この文庫では生頼の装丁が、ある意味ネタバレチックでもあるが)。ユーモラスな描写もあるが、内容は非常にハードである。
こうした4編の作品群に共通するのは、SF視点で捉えたマクロな対象(たとえば惑星そのものや歴史そのもの)にとっての運命の行方、そして、別れであろう。それを叙情性豊かに描いており、まさに”SFを読んだ”実感が胸に迫る作品群である。
(おまけ)この角川文庫版の解説は新井素子で、1982年出版なのでおそらく22歳くらいの文章になる。なかなかのポジティブ&ハイテンション文体(常にそうではあるが)、現時点から見るとちょっと切ないところもある。