ビジネスシーンの会議室。
ここ一番のプレゼンなどで、緊張しつつ喋っていると、後ろの方から聞こえてくる「やまびこ」の存在について論じてみたい。
登山とビジネスシーンは異なる。そもそも会議室は音声が反響するような作りにはなっていない。ではなぜ、こんなことが起こるのか。
かつて、こんな「やまびこ」の経験がある。
私が従事していたチームに、後から入ってきた「先輩」がいた。年齢、経験、地位いずれも私より上である。ただしそのチームはプロジェクト的なタスクフォースだったので、直接ラインとしての上司部下ではなかった(いわゆる評価権はないパターンの”上司”である)
私はそのチームで既に3年くらい従事しており、その「先輩」は、別の部署でキャリアがあり、リソース増強もあって入ってきたメンバーであった。
加入当初にはこちらから資料を作成し、状況などを説明する場面を設け、本人も「ふんふん、なるほど」と素直に聞いてくれていた。
だが、一抹の不安もあったのだ。この業務が少々特殊な面があり、技術的にマニアックな部分を理解していないと完結できない要素が含まれている。どうもわかっているとは言い難い。だが、それは本人のスキルの問題だし、もっといえば上の人間はある意味ディテール全て知る必要もない、という考え方もある。そこはただの不安であったのだ。
そして、ある会議の席でそれは起こった。
私が少々難しい局面の説明をしている際のこと。
私「ここで、〇〇からこんな主張があり」
私「それを受けてこちらで検討した結果、▲▲▲という技術で対応できるのではないかと判断し」
とテンポを持って偉い人にプレゼンをする。
?「▲▲▲!▲▲▲ね!」
私「?・・・で、予備検討を技術部門にしてもらいました、その結果がこのグラフです。予想通り□□□□現象を低減できており、予想が正しいことが検証できたと思います」
?「そうそう!□□□□現象!」
・・・後方から、「やまびこ」が聞こえるのである。
それが「やまびこ」である証拠にこちらが沈黙すると「・・・・」と「やまびこ」は消える。そして再び話し出すと、また”こだまがかえる”のである。
要するに、先輩が固有名詞をホストの合いの手のような感じで繰り返していたのだ。
私「え〜まとめますと、我々の開発した■■■を提案しようと思います」
先輩「そうそう!■■■ね!■■■ね!」
流石に何か言いたいことがあるのかと思い、
私「じゃ、ここから(先輩)さん、説明を代わりに引き継ぎますか?」
すると先輩は、ニヤニヤしながら両手を振って「いやいやいやいや」と拒否。
本人は意図があってやっていると思うが、そこに新しい情報もないので、ただのノイズでもあり聞きづらいだけのバックコーラスになっている。またこちらのプレゼンの隙間に無理くり入れてくるので、当初のテンポやリズムも狂うので、誰にとっても何一つ良いことはない行為なのである。
結局これは何だったのであろうか。いっこく堂を二人でやったおかしなパフォーマンスにもなっているし、考えてみて、以下のような結論に至った。
要するに「理解できていないが、俺は仕事をしているぞ」アピールなのだと。
チームには自分も参加しており、もっといえばそのプレゼンで暗示的にマウントを取りたいという上へのアピールの結果なのだと。最大の問題はさらに本人も中身を理解できない劣等感があり、それをこのような「やまびこ」で解決しようとしたと思われる。だが、そのあまりの露骨さにそれは奏功していないのは明白であった。
こちらもこのままだとプレゼンそのものの価値が落ちるので、まずは早急にその先輩の「成果」を手取り早く作ってあげることにした。つまり、彼の深層心理は「俺の成果がないじゃないか」という不満でもあるのだ。それを作ったことにより「やまびこ」は消えたが、どうやらこれがこの人のキャリアの基本スタイルらしく、そのうち消えていった。やはり人生甘くないのである。