酒と読書(マンガ含む)はあまり相性が良くない気がする。
飲酒は酩酊的であり、思考を分裂される方向に作用するが、読書は理性的であり、思考を統制・集中する方向に作用するからであろうか。
読書はどちらかというとコーヒーなどが合うと思う。
古本屋とコーヒーは相性が良い。そうした本も出ているくらいだ。
・『東京古本とコーヒー巡り(散歩の達人ブックス)』
私自身も、古本屋帰りの喫茶店というと、神田神保町の「さぼうる」であるとか、新宿の「談話室滝沢」(閉店)などが思い出される。
要するに、コーヒーすなわちカフェインであって、思考を集中させる方向に作用するので、読書にとって相乗効果があるということであろうか。
しかし、いわゆるアッパーとダウナーというドラッグ用語で言えば(なんでそっちの方向に行くのかな)、アルコールはダウナーであり、カフェインはアッパーである。
読書にはアッパー系が良いということになる。
しかしながら(まだ語る)、敢えてアッパーとダウナーをブレンドし、効果を拮抗させる”スピードボール”という方向性もある。
最近問題になっているチューハイのエナジードリンク割などはその例だ。
とは言え、個人的にはアルコールを飲みながらの読書は、あまり”面白くない”、と思う。
アルコールに合うのはYouTubeのような映像鑑賞である。同じ視覚情報であっても、読書のそれと映像鑑賞のそれは、脳みその中で、情報の処理方法が異なるのであろう。能動的と受動的といった違いであるとか。
……今回はそんなことを言いたかったわけではないのであった。
気を取り直して、アルコール、飲酒に関するマンガや本を紹介してみたい。
▪️酒飲みガイド編
・中島らも『せんべろ探偵が行く』(集英社文庫)
・さくらいよしえ+せんべろ委員会『東京★千円で酔える店』(メディアファクトリー)
・カツヤマケイコ、さくらいよしえ『女2人の東京ワイルド酒場ツアー』(メデイアファクトリー)
せんべろ=1,000円でベロベロに酔える、という意味であるが、味のある酒場、角打ちを紹介している。
中島らも先生の著書は、まさに元祖として他2書でも引用されている、一種の基本文献、原典である。この3冊は非常にオススメであり、繰り返して読める。
▪️酒飲み編
・二ノ宮知子『平成よっぱらい研究所 完全版』(祥伝社)
「のだめカンタービレ」の二ノ宮先生の若い頃の傑作。 ほとんど自分とその周りの酒飲み経験で作られている。ある意味、鋼鉄の肝臓(いわゆる肝臓エリートというやつですな)を持っているが故の大量飲酒エピソードが満載の”良書”(?)である。
・あっきう『あっきうのどこまで呑むの?』(ぶんか社)
女性が描くと普通はオシャレな酒飲みマンガを連想するが、このマンガは一気飲みは出てくるわ、リバースも出てくるわ、訳のわからないストロー飲みは出てくるわ、とにかく良い意味で”下品”な酒飲みマンガである。 そして、以下で紹介する、酒飲みマンガ特有の説教臭さゼロの良書(?)である(ただ近年のアルコールハラスメント的には、完全な焚書レベルであろう)。
・画:叶精作 原作:岡戸隆一『天龍源一郎 酒羅の如く』(白夜書房)
プロレスラー天龍源一郎のインタビューに基づく、プロレスラーの豪快酒エピソードが満載。 面白い。第一話の第一コマがいきなりリバースそのものの絵からスタートだが、叶精作の画力で全く下品さが無くなっている(笑)。第5話のジャイアント馬場のエピソードが良い(ちなみに馬場は飲めるが、全く酔わないので酒は好きではない、というエピソードが残っている)。 天龍の人間力が伝わってくる良作である。
・ラズウェル細木『酒のほそ道』(日本文芸社)
酒をテーマにしただけで既に単行本は45巻(2019年現在)。近年急にヒットしてきて手塚治虫マンガ賞を受賞した。
短編なのでこれは酒を飲みながら読める。個人的には主人公のマナーがあまり良くなく、サラリーマンマンガ的には完全にファンタジーな感じになってきた。
一番気になるのは、この主人公はいい年(30台後半と思われる)をして、上司(といっても課長)と飲むときには”この場は上司が奢るのが当たり前”というスタンスを持っているところである。 そして作品世界の秩序としても、それが正解になっている雰囲気がある。そんな毎回何人もの部下の勘定を奢れるような小遣いもらっているサラリーマンなんて日本に何人もいないと思うんだけど。
主人公は天龍源一郎に一度ビール瓶で頭を殴られると良いのではないか。その意味で、このマンガは完全にちょっと非常識なファンタジーなのである。
・原作:久住昌之、画:魚乃目三太『昼のセント酒』(幻冬社)
名作『孤独のグルメ』の主人公ゴローちゃんは下戸なので、酒を飲むシーンはない。しかし赤羽の名店「まるます家」はある(第4話)。 この店はリアルで行ったことがあり、朝から飲めるとんでもない名店であった。 その久住先生原作の酒+銭湯マンガであるが、内容はイマイチ。これも勤務中にサボって酒を飲むシーンが、リアリティに欠けるのである。 なお、主人公が下戸である『孤独のグルメ』は名作なので、何か酒飲み要素がグルメマンガに含まれると、おかしなノイズが入るのであろうか。
・原作:加藤ジャンプ、画:土山しげる『今夜はコの字で』(集英社)
グルメマンガ界の雄、土山先生の居酒屋マンガである。 実在の酒場をモデルにしている(やはり「まるます屋」は紹介されている)。 酒場紹介としては良いが、これまたマンガ上の解説者=酒飲みグルメの女性の先輩に、若い現代っ子が酒飲み指南されるというファンタジック+説教臭さが入っており、イマイチであった。
・古谷三敏『BARレモンハート』(双葉社)
その意味では、元祖とも言える酒マンガ 古谷三敏『BARレモンハート』(双葉社)は初期は面白かった。 1巻から4巻あたりの、謎のハードボイルドでファンタジーでウンチクでハートウォーミングな内容は、当時革命的であった。長期化するにつれ、古谷三敏の得意のウンチク趣味が出てきてしまい、陳腐化されてきたが、30年前に初めて読んだ時は、非常に衝撃的だったことを思い出す。ちなみにこの本でスピリタス(96度の酒)の存在を知った。
▪️酒飲みの向こう側編
酒飲みマンガが、どうしても上下関係のような説教臭さを物語構成のスタンダードとして持たざるを得ず、そこから逃れることが難しいとすると、酒飲みをさらに拗らせてしまった場合はどうか。
例えば、アル中など。
・吾妻ひでお『失踪日記』『失踪日記2アル中日記』(イースト・プレス)
言わずと知れた名作である。 アル中になる過程、治療のための入院の話が含まれ、ものすごく暗いが、吾妻ひでおのマンガ名人芸の力で全体として明るい名作に仕上がっている。
(帯の位置を戻しておけば良かったがリアリティ追求のためこのままとする)
・まんしゅうきつこ『アル中ワンダーランド』(扶桑社)
絵がメンヘル風味が加わり、結構厳しい内容であるが、全体としては面白い。
・卯月妙子『人間仮免中』『人間仮免中つづき』(イースト・プレス)
アル中ではないが、大量飲酒する場面が結構出てくる。内容は、これまで紹介したどの本よりもとんでもなく深刻(人格障害寸前の重度の精神障害)な中で、恋人ボビーと酒を飲むシーンが、”いい酒を飲んでいる感”が伝わってきて良い。 卯月先生には、これからもマンガを描き続けていって欲しいと思う。
■まとめ
総じて、ブックガイド的なもの、および、酒飲みのその先に行ったものには、説教臭さが皆無であった。 しかし、いわゆる酒飲みグルメマンガには、特有の”説教臭さ”、”上下関係”、”面白くないウンチク”、”世間常識から逸脱した倫理観、それを解決するための非常識なファンタジー感”があり、成功例が極めて少ないことがわかったのであった。