製造業に限らないが自らの競争力維持・獲得のために、業務プロセスの改善サイクルを常に回していく必要がある。
特にITという手段を使って設計改善・設計改革を進める場合、本当の意味でその改革が効果を上げているのかどうか、あるいは、費用対効果は問題ないのかどうか、実行する側も、その結果を聞く側も、常に疑問に思いながら進めているように思える。
加えて、この手の改善活動には、外部の「コンサルタント」が入ってくることもあ流。こうなると尚更、投資した結果が本当に有効だったのかどうかを正確に判断することが難しい。要するに、「高いお金を外部に払ったのだから、今更失敗なんて言えない」雰囲気が、会社経営者まで覆うような状態が起こってしまい、ますます真実の姿を見えにくくしてしまう。
勿論、目に見えて原価低減や設計リードタイム短縮が実現される状態なら誰も問題にはしない。
ただ実際やる側としては、常に不安がつきまとうのである。
こうした設計改革の活動の総括を行う際には、そうした効果をあえて明示的にプレゼンする。「○○億円コストダウン達成!」なんて。
しかし何か釈然としない。
ところどころから、不満の声も聞こえてくるからである。
「作業だけが増えた」
「設計ゲートが増加して、ミーティングと管理業務が増えた」
「設計生産システムが一気に新規更新になったため、作業ミスとストレスが増えた」
「文書管理のための書類作成が増えて二度手間だ」
「間接業務の専任スタッフが(一時的に)増加している」
などなど。
この手の話は、業務プロセスの変革には基本的に(一時的にせよ)何らかの負荷増大は避け得ないこと、および、ビジネスの撤退がバクチの負けを認められない状態と酷似してなかなか意思決定されないこととも相まって、誰もが認める成功事例は限られているように思われる。
そんな折、読んだ本である 北山一真『プロフィタブル・デザインiPhoneがもうかる本当の理由』(日経BP社)には、設計改革におけるこうした失敗に至る原因が考察されており、首肯できる事例が多く掲載されている。
大意要約であるが、以下のような記述がある。
- 設計改革がうまくいかないのは、設計の直接業務(設計業務そのもの)に攻めようとしないからである
- 社長報告しやすい間接業務中心の設計改革は‘‘改革ごっこ”に過ぎない。
つまり、設計そのものではなく、プレゼンしやすいIT系の設計改革は、北川によれば本質的ではないという。北山は更に踏み込んで、
- 設計標準化が失敗に終わる理由は、設計標準化=図面の標準化と解釈されるから
- 図面標準化の推進は「大は小を兼ねる図面」になり、使いづらい仕組みになる
と言う(要約は引用者、以下同じ)。
まさにその通りで、設計改革が、設計そのものではなく、一見とっつきやすい図面の標準化であったり、ITツール導入であったりと、活動を矮小化させてしまいやすいことを指摘している。これは外部コンサルおよび導入する側の推進メンバー双方の一種の知的怠慢がそれをもたらしていると思う。
成果主義の中で、手っ取り早い成果を追う姿そのものである。
それは
- 「設計標準化」は総論賛成、各論大反対になり失敗する
と言う事態そのものである。
では、本来の設計業務に踏み込むこととは、どのような行為なのだろうか。
すでに答えはこの書籍の中にあって、”設計そのもの”である。
実はこの”設計そのもの”が現場の設計者やマネージャークラスでも、本当に意味で理解されていることは少ないと思う。
そこに上記の設計改革が、往々にして失敗に至る組織的問題がある。
- 図面の標準化ではなく、設計の標準化をするためには、設計を言語化・数値化することが必要である。
- それはCADモデルの絵のことではない。設計に言語化(名付け)が必要。
- CADモデルの‘‘名無しの寸法に名前を付ける”こと
- 技術の可視化ができていないので、その根拠が見えない。
つまり、設計者の”設計意図”を具体的な「設計情報」に盛り込むことが設計の標準化の本質なのである。
3D-CADの履歴情報やパラメトリック情報というようなツール視点とは全く異なる。特に、言語化(形式知化)された設計意図が必要になるのである。
これはデジタルではなく、非常にアナログな部分であると思う。そして、実はあまり我々にとって成功していない領域である。
設計手法を工学的にアプローチする設計工学においても、設計意図の表現は難しい。今後AIなどの活用が期待されるとは思うが、将棋や囲碁のようなゲームより、もう少し複雑な要素が入っていると思う。ただ、実現できないことはないはずだ。
北山は、製造業の設計について明快に以下のように規定する(大意)
- 製造業=固定費回収であり、もうけが産まれる源泉は固定費のみ(ここで言う製造業としての固定費とは設備/治具/技術/現場作業)
- この固定費をマネジメントすることが必要
- 製品設計においては、顧客要求を満たす設計解を見つけ出す作業に、固定費を制約条件として入れてトレードオフにすることにより最適解を見つけ出す
- その最適解を追求できる仕組みを作れば大きな競争力になる
設計改革は、そうした最適解を見つけ出すための活動であり、そこで口当たり良く語られる様々なバスワードに惑わされず、設計の本質部分に対して切り込むことはなかなか難しい。
本質にある「設計意図」は、属人的でもあり、思想でもあり、暗黙知でもあり、それまでの伝承(歴史)でもある。こうした部分へのアプローチは、今後注目されていくであろうが、方法論的にはまだ色々な角度からの検討が必要と思う。
これまでの設計改善活動の欠点を的確に指摘した良書である。