【書評】カーター・ディクスン「プレーグ・コートの殺人」オカルト趣味たっぷりの古典ミステリ


 カーター・ディクスン(ディクスン・カー)の初期の傑作「プレーグ・コートの殺人」(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んだ。

 プレーグ(Plague)とは「黒死病」すなわち「ペスト」のことである。かつてヨーロッパで多くの人々の命を奪ったペストの流行にまつわる暗い言い伝えを持つ館で起こる密室殺人である。そこにさらに降霊術などのオカルト要素が入り、一貫して不気味な雰囲気を読者に与えている。

 そういう意味では、この原題は「黒死館」の「殺人」であって、小栗虫太郎のあのデコレーションな小説を想像させるが、そんなことはなく、ぺダンチズムも抑えめな探偵小説である。

 さらにこの小説は、名探偵ヘンリー・メリヴェール(H・M)の初登場作品でもある。短躯(といっても177cmある)でデブ、片付けができず、態度も尊大、口も悪く、下ネタ好きというなかなかのキャラであるが、頭脳は極めて優れている。

 トリック自体は現代目線で見ると、既に知られているものであると言えばそうなのだが、それでも十分楽しめる。

 完全な密室、容疑者の二重の消失と、エンターテイメントとして飽きさせない構成となっている。

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