ぼくが昨日バーで一人で飲んだボンベイ・サファイヤのことを考えているとき、突然、きみが呼びかけてきたので、ぼくは持っていたレイモンド・カーヴァーの小説を落としそうになった。
「今日、空いているかな?」
きみの目が少し潤んでいる。
突然言われたので、ぼくは「いや、今日はちょっとトラブルが」と答えた。
きみとは昔はずっと会っていた関係なのに、ちょっとしたボタンの掛け違いから疎遠になってしまった。
「トラブルって?」ときみは尋ねる。
ぼくは手を後ろに回して、少し背伸びをしながら「いや、個人的なこと」と答える。
「そう」と、言って、きみは去っていった。
きみから誘ってくるなんて、突然だったので、ぼくは戸惑ってしまった。
終了。気持ち悪い文章を書いてしまった。
正確には、以前酒の席で粗相をしてしまい、このところ疎遠になったかつての飲み友達のオッサン(年上)から、久々に「今日、飲みに行かない?」と誘われたのである。
昨日立ち飲み屋で飲んだホッピーが濃すぎてキツかったなぁと考えていた時である。
そのオッサンの目が潤んでいるのは、酒の飲みすぎで年中充血しているからである。
私が「今日はちょっと」と言って断ったのも事実である。
理由としてあげたトラブルも嘘を言ってはいない。トラブルは事実である。
ただし、その正確な理由は”朝一で座席に座った瞬間に、ズボンのケツが一気に破けていたから”である。常に隠すためのビジネス本を持ち、手を後ろに回して、ケツへの視線を避けていたのである。
ちなみにズボンの状況としては、繊維レベルで裂けている系なので(わかる人にはわかる表現)、修復は無理である。それは初動段階で、トイレにおいて目視確認済みである。
飲みに行きたいのは山々だが、早く帰ってズボンを購入したい。そんな1日であった。
今シーズン2回目、前回は出張先で破れ、ホテルで裁縫セットを借りて応急処置した。
ビジネスマンにとってのスーツは、必要経費にしていただきたい。現場からは以上です。