ロボットものの古典的SFミステリである、アイザック・アシモフ「鋼鉄都市」を読んだ。
地球は人口爆発して、テクノロジーによる管理された文明を築いていた。 表題の”鋼鉄都市” (The Caves of Steel)とは、技術によって管理社会のもとで、自然から隔絶する形で作られた巨大なドーム都市を指す。この環境制御されたドーム都市で生活する地球人は、極めて内向きに閉じた思考様式になっており、自然や社会に対して怯えるようにして生きている。
原題通り、かつての人類が自然に対してそうであったように”cave =洞窟”のなかにいるのである。
この閉じた地球文明と、かつての宇宙移民の末裔である「宇宙人」とがコンタクトしているが、この宇宙人の文明は、地球のそれを更に凌駕した高度な科学技術を持っている。一方で宇宙人の文明自体も成熟が極まっており停滞し、文明としては衰退しつつある。
ただ、地球人と宇宙人の接触において、科学技術的(武力的)には、宇宙人が圧倒的優位にあり、両者の交流はほとんど進展せず、不信が横たわっている。宇宙人に適わないストレスと、 ロボットに仕事を奪われ不満を募らせる地球人たちは「懐古主義者」と呼ばれる反機械運動の地下組織を作り、 暴動が何時起こってもおかしくない緊張状態になっていた。
そんな中で、宇宙人の殺害事件が発生する。
そして、その容疑者は明確に地球人であり、 地球人の責任において犯人を捜す必要に迫られる。
その捜査担当に選ばれたのが、主人公イライジャ・ベイリである。そして、彼は宇宙人から派遣された人間そっくりな姿のロボット(R・ダニール)とパートナーを組むことを求められる。仕事を奪うロボットへの反感は、イライジャ自身も持っており、こうした心理も合わせて描かれる。
1953年の作品であるが、ガジェット自体もあまり古びておらず、現代的に十分読むことができる。むしろ、未だに機械と人間の関係において、我々自身が解決できていない課題を改めて考える機会にもなる。
捜査の過程で二転三転する仮説や事件の連鎖など、推理小説としての謎と解決の構成も素晴らしい。
また、SFが持つ問題意識、すなわち文明の成熟、異文明の対立、その超克の方法についても、アシモフは真正面から解決シナリオを描いている。そこで問題となるであろう、人類とロボットの拠って立つ法的問題(ロボット工学3原則)、共存のための科学的概念( C/Fe )など、新たな概念も多く提示している。
さらに旧約、新約の聖書を縦糸とした、SFというフロンティアが産み出す課題に対して、人類にとって普遍的な深さを与える効果も上げている(ラストまでつながる重要なモチーフになっている)。
そして、この重層的な物語としての魅力のうちで最大のものは、この小説の持つ”若々しい青春熱血小説”としての側面ではないかと思っている。
イライジャ自身は43歳(続編の「はだかの太陽」で言及)で、決して若いとはいえない年齢であるが、それでも熱意は物語の中で常に変わらず、いろいろな方向に衝突し、エネルギーを放散している。そしてそれは時に誤りだらけで、あちこちでエネルギーロスを起こしている。
しかし、最終的にその熱意こそが、最後のカギになるのである。
その傍らにいる、冷静そのもののロボットR・ダニールとの会話も良いコントラストを生んでいる。
主人公の熱意は最終的に、機械であるR・ダニール自体にも変化をもたらすことを予感させる。
主人公は「熱血」そのもので、こうした若々しいエネルギーに溢れた面白い小説である。