昔、週刊文春の連載「糸井重里の萬流コピー塾」においてだったと思う。大意として、このように語っていたと記憶する(なお、手持ちの単行本を探しているが、原典が見つからない。もし、違っていた場合、容赦していただきたい)。
・才能は枯渇する
・人脈は枯渇しない
・だから、歳を取るごとに、才能に対して人脈の必要性の比率が高まる
・いわば、才能は動産で、人脈は不動産
なかなか面白い例えで、ビジネス本などでも人脈とか繋がりへの”投資”をちょっと過剰に勧めるのは、不動産投資の勧誘の言説と似た構造があるのかと面白く思った。
また、あまり大っぴらに言われないことだが、どんな仕事でも、加齢による精神的・肉体的な衰弱化に伴い、パフォーマンスは低下するものである。これは間違いない。
どんな才能がある人間でも言えることで、スポーツの世界などでも例を挙げるにはいとまがない。
才能によって初期状態が他者より高くとも、いつかは凡人のレベルまで低下する時がやってくる。
ただ、その下降の傾きは、トレーニングなどにより、緩やかにすることはできるだろうとは思う。
また、活動するジャンルによっても、その変化は見えにくいはずで、インサイドワーク・経験の蓄積がアウトプットに反映されるような場合では、更に上乗せがあるだろう。
例えは適当でないかもしれないが、ボクシングとプロレスみたいなものである。
さて、エンジニアはどうか。
当然技術というのは性能が全てで、エンジニアのアウトプットは数値化されやすい。
例えば同一の性能を出す機能を実現する手段としては、より低コストな方法が優れているし、同一の投資に対して、より高い付加価値を生み出す装置の方が優れている。それを一定のリソースの制限で考案できるエンジニアは優れている、と判断される。
また、常に技術は進化しているので、保有技術の時間による陳腐化も早い。より自分自身をアップデートする必要もある。常にルールが変わる世界に身を置いているようなものだとも思う。
しかし、幸いなことには、技術には自然科学を基礎としたベース部分があり、このベース部分は決して古びることはない。
また、経験に基づく知見というのも確かに存在し、ベテランの方が過去の経験から製図に潜む設計ミスやトラブル原因を未然に素早く見つけることもできるという事実もある。
更に、泥臭い話だが、エンジニアはチーム作業なので、人間関係などインサイドワークの部分もある。
つまり、エンジニアはかなりプロレス的インサイドワークが使え、現役である時間が長いということが言える。プロレスや競輪に近いジャンルと思われる(両者を例えることに異議もあるだろうが、ここでは純粋に
現役である期間が長いという点について論じている)。
従って私としては、アントニオ猪木がそうであったように、天龍源一郎がそうであったように、リック・フレアーがそうだったように、萩原操がそうであったように、現役にこだわりたい。
日々若い衆はやってくる。そして戦いを挑んでくる。そこでやはり勝ちたい。6勝4敗ペースで行きたい(低い目標だが)。やはりキャリアを積むと、インサイドワークはあるのである。若い衆が他部門との折衝で消耗しているのを横目に、これまでの信頼の積立額を取り崩すことを使って軽くクリアすることくらいできるのである。
しかし、どんなジャンルでも、いつかは現役を退く時期はやってくる。そのときを自分で判断することができるだろうか。
若者が、申し訳なさそうな引導を渡してくれる状況にならないように、ハードランディングを防止すべく、日々ビクビクしている。